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東京工大ら、圧電体膜を240℃の低温で作製高電圧を印加する分極処理は不要

東京工業大学らの研究グループは、水熱法を用いてニオブ酸カリウムナトリウムの膜を、240℃と比較的低い温度で作製することに成功した。高電圧処理が不要なため、大きい面積で複雑な形状にも対応でき、窒化物膜に匹敵するセンサー性能定数を達成している。

» 2020年10月12日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

センサー性能定数は窒化物膜に匹敵

 東京工業大学と上智大学、東北大学金属材料研究所、大阪府立大学らの研究グループは2020年10月、水熱法を用いて圧電体の1つであるニオブ酸カリウムナトリウムの膜を、240℃と比較的低い温度で作製することに成功したと発表した。高電圧処理が不要なため、大きい面積で複雑な形状にも対応でき、窒化物膜に匹敵するセンサー性能定数を達成している。

 圧電体は、機械的エネルギーと電気的エネルギーを変換する機能を持った材料で、圧力センサーや振動で発電するエナジーハーベスタ(振動発電機)などに用いられている。ところが、これまでの圧電体は、性能を向上させるため仕上げの工程で「分極処理」を行っていた。この処理は高電圧を加える必要があり、その影響で大面積になるほど絶縁破壊の数が増えていた。

 圧電体は大きくたわむと発電電力も大きくなる。また、圧電体の膜厚が厚いほど、出力電圧は大きくなり、整流時の損失を低減できることが分かっている。ところが、これまでの成膜方法だと、600℃以上の高温プロセスが必要となり、冷却工程で膜が割れるなど品質面での大きな課題もあった。

 研究グループは今回、高圧鍋を用いる水熱法で、ニオブ酸カリウムナトリウム膜を作製した。この時の作製温度は240℃で、従来方法に比べると半分以下である。しかも、作製した膜は内部に存在するプラスとマイナスの方向がそろっており、製造したデバイスでは、高電圧を加える分極処理が不要となった。

 水熱法を用いたことで、高電圧印加による絶縁破壊の問題を解決し、大面積化が容易となった。また、作製温度を下げたことで膜厚を最大22μまで厚くしても、膜が割れることはなかったという。

左は240℃で作製した膜。膜厚22μmでも表面に「割れ」がない。右は作製後に600℃で熱処理した膜(膜厚7μm)。表面に多くの「割れ」を確認できる 出典:東京工業大学他

 作製した膜の圧電定数(e31,f)は、これまで報告されてきたニオブ酸カリウムナトリウムとほぼ同じ値で、膜厚を厚くしても最大22μmまでは安定していることを確認した。

膜厚と圧電定数の関係 出典:東京工業大学他

 さらに、作製した膜のセンサー性能定数(g31)を測定したところ、0.073Vm/Nという高い値を示した。この値は、酸化物材料の圧電体としては最高値であり、窒化物材料で高い値を示すSc置換窒化アルミニウム(AlN)に匹敵するという。

今回作製した膜とこれまで報告された膜におけるセンサー性能定数の比較 出典:東京工業大学他

 しかも、今回作製したニオブ酸カリウムナトリウムは、Sc置換窒化アルミニウムに比べ約10倍の誘電率であり、回路設計も含めセンサー応用に適しているという。

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