具体的には、まずハードの分野では複数の方式に取り組むことで、幅広く可能性を追求する。理研および東大との共同研究では、超伝導量子ビットを世界で初めて実証した第一人者として知られる中村泰信教授のチームとともに、超伝導量子コンピュータの研究に取り組む。ここでは超伝導回路が量子化された2準位系人工原子を量子ビットとして使用。「理研、東大の持つ独自で世界最高レベルの量子ビット制御、読み出し、集積回路技術と、富士通研の持つ材料、デバイス、回路、システム技術を融合し、大規模で精度が高い量子コンピュータの実現を目指す」としている。
これに加え、佐藤氏は、「将来のブレークスルーを狙ったエマージングな方式にも取り組む」と説明。デルフト工科大との共同研究では、ダイヤモンド中のスピンを量子ビットとして使う「ダイヤモンドスピン方式」の量子コンピュータ開発を進めていくという。
この方式は、窒素などの不純物原子をダイヤモンドに導入することで、ダイヤモンド中にスピン状態を形成し、それを量子ビットとして用いるというもの。超伝導方式などと比較して高温動作が可能で大型冷却器が不要となり、容易に大規模化を実現できるようになることが期待されるほか、光によって量子状態にアクセスでき、離れた量子ビット間の演算も光を介して行えるので、ノイズの影響を受けにくいという特長があるという。
ダイヤモンドの結晶中、本来は炭素があるべきところに窒素が置換されその隣接する位置に空孔がある複合欠陥「ダイヤモンドNVセンター(窒素-空乏中心)」がよく知られているが、佐藤氏は、「本共同研究では制御性向上のため、別の不純物原子の採用を進める。まだ基礎研究段階だが、ブレークスルーを狙い長期的に取り組んでいく」と語った。
さらに、「社会課題解決を解決するためのアプリケーション開発が最終的な目標だが、そのアルゴリズムを実際に実行するためには、エラー緩和、訂正技術がカギとなる」とも説明。Quantum Benchmarkの研究に加え、今回新たに阪大と、汎用量子計算に向けたエラー訂正技術とアルゴリズムに関する研究を行っていくことも紹介した。この研究では、新たな誤り訂正符号とその実装法、量子コンピュータと古典コンピュータの連携技術の開発に取り組んでいく。
佐藤氏は、「富士通研では、社会課題の解決のため量子コンピューティングで、長期的な研究に取り組む。近い将来ではNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)コンピュータ、将来的には大規模な誤り耐性量子コンピュータの活用を目指し、ソフトとハードの両面での研究を進めていく」と語った。当面は数年後をメドにまずNISQ用の実用的なアルゴリズムの開発を目指す方針だ。
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