今回は、私を発狂寸前にまで追い込んだ、驚愕動転の量子現象「量子もつれ」についてお話したいと思います。かのアインシュタインも「不気味」だと言い放ったという、この量子もつれ。正直言って「気持ち悪い」です。後半は、2ビット量子ゲートの作り方と、CNOTゲートを取り上げ、HゲートとCNOTゲートによる量子もつれの作り方を説明します。
「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー
長い時間をかけて「量子の非局所性」を理解して、驚愕呆然(きょうがくぼうぜん)で階下のリビングに降りていった私は、テーブルで新聞を読んでいた嫁さんに、おもむろに声をかけました。
江端:「あのさぁ、『虫の知らせ』って知っているよね」
嫁さん:「ああ、近親者が亡くなった時などに、何の根拠もないのに、その事を知ってしまう、いわゆる『故人が夢枕に立つ』っていうアレのこと?」
江端:「そうそう、それ」
嫁さん:「で、それが?」
江端:「これは、例え話なんだけけど、もし、私が、木星大気圏検索探査艇JADE-IIIで、古代宇宙人の母船『ジュピターゴースト』の探査をしているとして ――」
嫁さん:「何の話?」
江端:「まあ、つまり、私がとんでもなく遠い場所、例えば、光の速度でも43分間もかかるような木星の周期軌道あたりに『出張中』だったと考えて欲しい」
嫁さん:「よく分からんけど ―― 分かった」
江端:「そこで、その探査艇が不慮の事故によって爆発し、私が即死したとする」
嫁さん:「うん、それで?」
江端:「私が、地球にいる家族の『夢枕に立つ』のって、事故発生後から43分より後だと思う? それとも、事故の瞬間だと思う?」
嫁さん:「うーん、分からないけど、私は『事故の瞬間』の方がいいな。43分後というのは、なんとも味気ない」
江端:「まあ、普通、そう思うよな。それが自然だと思う。とすれば、その『”夢枕”通信』は、光速を突破して、有意な情報通信(緊急事故速報)を可能としている、ということだよなぁ・・・・。つまり、それは、相対性理論との明らかな矛盾が発生することになるが・・・」
と呟きながら、自分の部屋に戻っていく私を、嫁さんは全く気にしていない様子でした ―― いつも通り。
ことし(2020年)の4月にこの量子コンピュータの連載を始めてから、自宅での論文や資料の印刷の枚数がハンパではありません。A4用紙やインクの消費量もすごいことになっており、私の部屋の中が資料で溢れかえっており、全く収集がつきません。
それでも、前回までで、「1量子ビット」については、自分なりに理解して纏めることができたと考えて、今回から「2量子ビット」の勉強に入っています。
そんでもって、これまで着手していなかった ―― 正直に言うと、勉強を避けてきた ―― 「量子もつれ」を調べ始めました。着手していなかった理由は、「もつれ」という言葉を見ただけで、『あー、なんか、面倒くさそう』と思ったからです*)。
*)実際のところ、私は「量子の重ね合わせ」と、「量子もつれ」を混同して使っていたくらいです。
そんな訳で、今回は、この「量子もつれ」について、論文、書籍、Webサイト、果ては、YouTubeの動画に至るまで、徹底的調べたのですが、なかなか理解できませんでしたが、ある瞬間、その意味に気が付きました。そして、呆然自失となりました。
私は、本連載の第1回で、「観測によって状態が変化する量子」を、『怪談』と言いましたが、今回の「量子もつれ」 ―― 量子の非局所性 ―― の話は、『怪談』などというレベルではなく、私を発狂寸前にさせるものでした。
『1対の量子の一方の状態が確定すると、他方の量子状態も”瞬時に”確定する。たとえ、その2つの量子の間の距離が、何百万光年離れていようとも』
(この原稿を執筆している時点の私は)この「量子の非局所性」が、超高速通信を実現するものでもなければ、いわんや物体移動(どこでもドア)なんぞとは、全く無関係であることを知っていますが ―― それでも、今なお、
―― 気持ち悪!
という感情を捨てきれていません。
『量子論は不完全である』と終生主張し続け、この量子の非局所性を『不気味な遠隔作用』とまで言い切った、あのアルバート・アインシュタインさんの味方になれる、と思っているほどです*)。
*)江端が何を言っているのかは、今回のコラムを全部読んで頂ければ分かります(多分)。だから、最後のページまで読んで下さい(途中で止めないで下さい。数式が出てくるページは全部すっとばして構いませんから)
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