ブロックチェーン技術とは、詰るところ、複数の人間で、1つの台帳を分散管理していく方法です。
分散で管理をしているからこそ、このようなコンセンサス(同意)のプロセスが必要になる訳ですが、そのおかげで、政府とか、大手銀行などの「絶対的な権威」みたいなものが不要になる、というメリットがあります。加えて、組織のおきて(業務命令による改ざんなど)も、発生しにくくなるというメリットがあります。
しかし、冒頭で御説明した通り、私は『権力によって管理されない、完全に自由な分散システム』というのは幻想だと思っておりまして、そういう立ち位置から見た場合、いろいろとケチを付けることもできるのです。
それは「ブロックチェーンだから」というよりは、「分散システム技術」「分散システム運用」という観点から見えてくる事項です。
まあ、いろいろ書きましたが、一言で言えば、「あなたは、ブロックチェーンの運用サイドとして参加したいと思いますか?」に尽きると思うのです。
24時間PCをつけっぱなしにして、膨大なハードディスク容量を使用されて、そこまで私財を投じて―― 政府の公文書管理の改ざん防止に協力する ―― なんて、そんなボランティア精神、私は持っていません。
そんなことするくらいなら、改ざんを指示した政治家や担当者を、汚い言葉で罵(のの)しるツイートでもした方が、はるかにラクです。
つまりブロックチェーンには、ユーザー側にとって「おいしい」仕組みやストーリーがないのです。
それと、変な論旨の記事も散見されます。以下に、その一例を記載します。
もうね、なんというか ―― 「AI」と「5G」と「クラウド」と「IoT」を並べれば記事になる、と思っているライターや評論家が多すぎるように思えます。
ブロックチェーンを語るのであれば、まずは身銭切って、ビットコインを購入して体感するくらいのことはすべきでしょう。
その購入プロセスだけで、必要となるソフトウェアや、購入先の仲介者から、ビットコインの最小単位(satoshi)の意味まで理解できるし、間違いなくブロックチェーンの仕組み目の当たりにすることになるでしょう。それ以上に、自分の金がかかっている以上「本気」になれます。
本気になれば、ここ10年の、説明できないビットコインの高騰と暴落を調べることになり、少なくとも、「バラ色のビットコイン生活」などという論調の記事など書ける訳がありません。
私にしたって、今、”Bitcoin Core”のダウンロードや操作方法で四苦八苦している最中(筆者の技術メモ)ですし、その後はEthereumやHyperledger Fabricも試してみたいと思っています。
そして、最後には、ビットコインの購入も試みる予定です ―― たとえ、ビットコインが私の仇敵であろうとも、です。
では、今回の内容をまとめます。
【1】「踊るバズワード 〜Behind the Buzzword」の「ブロックチェーン」の第1回目です。この連載でも、これまでの連載と同様に、「出たとこ勝負(江端の興味のままで)」で続けさせて頂くこととなりました(EE Times Japan編集部承認済み)。前回のシリーズ(量子コンピュータ)でも、結局、当初の計画通りの連載とならなかったからです(「考えるだけムダ」と判断しました)。
【2】本連載では「ブロックチェーン」を説明するためのアプリケーションとして「ビットコイン」を使うこととします。今回は、「ビットコイン」の技術から、「ブロックチェーン」の技術が誕生した、というお話をしました。
【3】「ビットコイン」に関する、私(江端)の誤解を全て開示し(恥をさらし)、ビットコインの仕組みについて、アニメ「シュタインズゲート」と「BEATLESS」の登場人物に登場してもらって、その概要を説明しました。
そして、いわゆるビットコインのマイナー(発掘屋)といわれている者たちが「旗取りゲーム」をやっているだけであることと、ビットコインの価値の根拠が、単に膨大な電力とコンピュータリソースの消費の対価にすぎないことを看破しました。
【4】「ビットコイン」に対する、私(江端)の理不尽なまでに強烈な「不快感」を表明し、それと同時に、ビットコインの「人間を踊らせ続けるアルゴリズム」の完璧さに魅了されてしまったという事実も、正直に吐露しました。
【5】ブロックチェーンの根幹技術である「コンセンサス(同意)アルゴリズム」の概要3つを説明し、現時点でのブロックチェーンに対する”ケチ”と、ブロックチェーンの記事に対する"批判"を書き出してみました。
以上です。
通貨の価値は「信用」という名前の共同幻想である ―― これは、このコラムを読んで頂いている方には自明なことだと思います。(簡単に言うと、「一万円札の製造原価は数十円」ということです)。数十円の紙に、1万円の価値を与えているのは、日本銀行という組織の「権威」です。
以前、私は、「儲からない人工知能 〜AIの費用対効果の“落とし穴”」で、日本人の個人が所有している資産(家計金融資産)が、流通している紙幣の額面の総合計の14倍(1500兆円)もある、と述べました。
つまり貨幣経済における価値は、有体物としての「貨幣」ではなく、「信用」という正体不明の無体物によって支えられている訳です。ビットコインに至っては、もはや「貨幣」ですらありません。ただの「数字(”6.25”)」です。
今回、私はいろいろな資料を読み倒して、ビットコインについて調べました。で、多くの資料で、その「仕組み(技術)」については理解できたのですが、私が、どうしても知りたかったことは、どうやってビットコインに「信用」を乗せることができるか/できたのか? という、その一点でした。
―― よく、こんな「数字」ごときに「信用」を化体させることができたものだなぁ
と、心の底から感心しています(あ、ちなみに現時点の私は、全然信用していませんけどね)。
もしかしたらアプローチが逆なのかもしれません。
新約聖書には、「始めに言葉ありき」と記載されていますが、実は、「言葉の前に数字ありき」というフレーズが省略されているのかもしれません。
まず、原始宇宙においては「数字」があって、その後の人類と文明に発達を経て、その数字に価値を持たせる必要性から「紙幣」が生まれて、それがちょっとばかり先祖返りして、とある国の「デジタル庁」みたいなのものが必要になってきているのかなー、などと考えています。
ビットコインのアルゴリズムが「数字」に価値を付与する仕組みであるなら、近い未来、「愛」に価値を付与するアルゴリズムが登場するかもしれません ―― もっとも、そのアルゴリズムがどんなアプリケーションを生み出すのかは、全く想像できませんが。
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