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日本最高峰のブロックチェーンは、世界最長を誇るあのシステムだった踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(9)ブロックチェーン(3)(9/10 ページ)

» 2020年12月25日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

天皇系図は、「天皇のブロックチェーン」である

 ここで、第1回でご説明した、ブロックチェーンの”人工信用”構築手法、コンセンサスアルゴリズムであるPoW(Proof of Work:プルーフオブワーク)を、もう一度簡単におさらいします。

 PoWとは、一言で言えば、「記入された台帳のページ数が多い方を信用する」という人間の直感に優しい考え方を、コンピュータとネットワークで実現する方法です。

「分岐」、つまりフォークです

 この方法であれば、ブロックチェーンシステムに後から参加する人であっても、納得感は大きいです。また、記載された台帳を、一からひっくり返すことは不可能です。

 そして何より、ブロックチェーンのすごいところは、「2つ以上の台帳の併存が許されている」という点にあります。これが分岐(フォーク)です。そして、たとえフォークが発生したとしても、いずれは、そのフォークは、どちらかが、長く/厚くなることで、勝負が付く、という考え方を採用しています。

 天皇系図、日本史、そして”フォーク” ―― ここから思い出される歴史上のイベントがありましたよね。そう、「南北朝時代」です。

 鎌倉時代の後半から約半世紀、持明院統と大覚寺統という二つの相いれない系統が併存している状態が続いていたのです。天皇制は、2つの系統を併存させて存続できる、フレキシブルなシステムでもあったのです。なお、このフォーク状態は、暴力装置(軍事力)の働きで統合されるに至ります(明徳の和約 1392年)。

 天皇系図とは、簡単に言えば、「歴代天皇陛下の記録台帳」 ―― 天皇のブロックチェーンです。

 ことし、西暦2020年は、初代エンペラー神武天皇を起算年とした皇紀2680年です。2680年分のブロックチェーンは、日本最長であることは言うまでもありませんが、このような体系的な記録としては、世界最長であるとも言えます(キリスト教にぶっちぎりで勝っています)。

 古いといえば、古代エジプト王朝などもあるのですが、ローマ帝国あたりで消滅してしまいます。

 中国なんかも、歴史においては、古いのです(“中国3000年の歴史”とか言われます)が、あの国は、不思議なことに、前の王朝を歴史的な記録も含めて、徹底的に跡形もなく破壊し尽すという習慣(文化)があります(ごく最近の「文化大革命」含めて)。その為、ブロックチェーンを作りにくかった国と言えます。

 というか、普通、征服した権力は、それ以前の権力を否定、または「最初からなかったもの」にしてしまいます。それが普通であると、私でも思います。

 ところが、天皇制において、「天皇自らが権力そのもの」であったのは、古代の発生時の初期段階だけで、歴史上、政治権力の中枢になることはありませんでした(時々は権力者として振る舞うこともあったけど短いです(最短2年))。結果的に、権力中枢との適当な距離感が「天皇のブロックチェーン」に有利に働いたのです。

 しかも、この天皇のブロックチェーンの凄さは、皇紀2680年よりもずっと長いことにあります。なにしろ、クラウド(天上界)の世界にまでつなげる「執念深さ」です。

 神話の世界のイザナギ/イザナミから誕生した太陽神アマテラスが、「あそこ(日本列島)、うちの子に統治させればいいんじゃね?」という軽いノリで送り込んできた神の子孫(しかも、アマテラスとその子どもたちは、結構な頻度で失敗しまくっている)の中で、最初に日本本土の上陸に成功したのが、ニニギ(瓊瓊杵尊(ににぎのみこと))です。これが、初代エンペラー神武天皇の、ひいおじいさんです。

 ニニギの日本本土上陸後も、アマテラスの子孫の神様は、かなりムチャをやります(大国主神(オオクニヌシ)の国譲りなど)が、これも、天皇ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムの発動(「新興勢力による権力奪取の正当化」)と考えると、深く納得できます(参考:著者のブログ)

 このように神話の話も含めてしまえば、「天皇のブロックチェーン」の長さは千年単位から、万年単位に拡張できる、と考えても良いでしょう。

 太平洋戦争の終結直前の御前会議前後で、軍部(陸軍)大臣が、「国体護持(天皇制の維持)」を強行に主張して、ポツダム宣言の受諾を受け入れようとしなかったことは、各種の映画でよく登場します。

 私も、ブロックチェーンを勉強した結果として、「奇跡的なプロセスで継承され続けた、日本オリジナルの唯一にして絶対の”ルート認証局&ブロックチェーン”を守る」という目的であれば、当時の陸軍大臣の側に立てる、と、今だけは思えます

 以上、これが、私がMさんからご教示されて、自分なりにアレンジを加えた「天皇制=ルート認証局 & ブロックチェーン=与信システム」の解説です。

 では、今回の内容をまとめます。

【1】前回に引続き、「貨幣の信用」についての検討を行いました。その結果、貨幣の成立の3要件の前に、貨幣(特に法定通貨)の信用の前提として「暴力装置(=警察力、軍事力)」の存在が必須であることを、脱税や貨幣偽造の罰則内容と、「日米安全保障条約が破棄された日」という机上シミュレーションから論じました。

【2】クレジット市場の信用が、債権の相互リンクによって成立していることを説明し、その仕組みを利用しこのクレジットの信用が、思った以上に「ヤワな信用」であったことが露呈されてしまった例として、2008年のサブプライムローン債権から、リーマンショックに至るプロセスを用いて説明しました。

【3】「ビットコイン」に関する信用が、「過去に一度も出会ったことがないネットの向こう側の他人を“信用”するため」に、工学的プロセスによって生成される“人工信用”の一種であることを説明しました。またビットコインに使われている、電子署名の仕組みと、印鑑登録制度とWeb認証における電子認証局(CA)を対比させて、具体例で説明しました。

【4】しかしながら、電子認証局のトップの信用を担保する方法がないこと、それと、その信用を維持し続ける手段が欠けていることを問題提起しました。そこで、これらの問題を解決している、“ルート認証局”であり、“ブロックチェーン”本体でもある「天皇制」を用いて、上記の“人工信用”であっても、“信用に足る信用”になり得ることを論じました。


 以上です。



 天皇制とは「与信システム」である ―― という話を家族にしたら、全員が一斉に嫌な顔をしました

嫁さん:「天皇陛下ご本人を『システム』と称呼するのは、ちょっと失礼(不敬)にも程があるんじゃない?」

江端:「え! いや、違う、違う!とんでもない誤解だ。私は、陛下については一言も言及していないぞ。今上天皇については、これから一緒に人生を歩ませて頂くという気持ちでいるし、明仁上皇(先の天皇陛下)に関しては、敬意と感謝以外、何もないぞ」

嫁さん:「……どういうこと?」

江端:「私、昭和天皇については判断を留保しているんだけど・・、明仁上皇については、その在位の全期間をずっと見つづけてきた。日本国憲法を平和憲法と信じ、それを守るためであれば、その相手が内閣であったとしても、闘われてきたと思っている。ご退位のお気持ちの全文を読んで、思わず込み上げるものがあったくらいだ」

次女:「なるほど、パパは“天皇陛下”と“天皇制”は分けて考えなければならない、と言いたい訳だね。うん、それは分かった。しかし仮にそうだとしてもだ、『与信システム』とかじゃない、もっと別の言い様があるでしょう」

江端:「え? 天皇制はシステムだよ? ほら、翻訳エンジンでも、”Emperor System”って出てくるでしょう」

次女:「じゃあ、『与信』を別の言い方にしてよ。なんか天皇制が、銀行や不動産の査定部門みたいじゃんか?」

江端:「ある意味、それはそれで正し……(ここで、家族全員ににらまれる)、こほん。うん、では、そうだな、『思いやり』とか『信じあう心』とか『敬愛の念』とかを入れた、良い言葉を思い付いて、それでコラムを書くよ。じゃ、ま、そういうことで」


結論:良い言葉を思いつきませんでした。

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