東京大学と東京工業大学の研究グループは、産業技術総合研究所や大阪大学の研究グループと共同で、トポロジカル原子層の積み方によって、スピン流の通り道を変えられる「高次トポロジカル絶縁体」が発現することを実証した。
東京大学と東京工業大学の研究グループは2021年1月、産業技術総合研究所や大阪大学の研究グループと共同で、トポロジカル原子層の積み方によって、スピン流の通り道を変えられる「高次トポロジカル絶縁体」が発現することを実証したと発表した。省電力スピン流デバイスや量子計算デバイスへの応用に期待する。
共同研究グループは、トポロジカル原子層の「積み木」による物質設計を基に、高次トポロジカル絶縁体の実証に取り組んできた。今回の研究で注目したのがビスマスハライドBi4X4である。この結晶は、トポロジカル原子層の積み木構造を自然に実現するだけでなく、温度あるいはXサイトがヨウ素(I)か臭素(Br)によっても、積み木の構造が変わるという特長を持つ。
実験の結果から、ビスマス臭化物「Bi4Br4」は、奇数番目の層と偶数番目の層が交互に180度反転しながら積み上げられた構造となり、結晶の稜線(ヒンジ)だけが金属となる「高次トポロジカル絶縁体」状態になっていることが明らかとなった。
一方、β-Bi4I4は、トポロジカル原子層を単純に積み上げた構造となり、結晶の側面に金属的な状態が残った。また、α-Bi4I4は下から数えて奇数番目の層と偶数番目の層が互いにずれながら積み上がる構造で、内部も表面も電流を流さない普通の絶縁体になることが分かった。
ヒンジの電子状態を観察するためには、限られた空間にのみ流れる、微量の電流を検知する必要がある。これを可能にしたのは、ビスマスハライド特有の結晶構造にあるという。Bi4Br4単結晶の劈開表面は、鎖同士がほどけてできる無数の階段構造となっている。この1つ1つにヒンジ状態が出現するため、これに沿って流れる電流の総量が大きく、電流の検出が可能になった。
角度分解光電子分光測定で電子状態を直接観察した。この結果、α-Bi4I4はバンドギャップが開いた通常の絶縁体であることを確認した。これに対しBi4Br4は、バンドギャップ中にトポロジカルなヒンジ状態を示すディラック型の電子構造が形成されており、高次トポロジカル絶縁体であることが明らかにした。
共同研究グループは今回の成果について、省電力スピン流デバイスや量子計算デバイスへの応用を期待している。
今回の研究は、東京大学物性研究所の野口亮大学院生や黒田健太助教、近藤猛准教授および、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の笹川崇男准教授らによる研究グループが、産業技術総合研究所物質計測標準研究部門ナノ材料構造分析研究グループの白澤徹郎主任研究員、東京大学大学院工学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所創発物性科学研究センターのチームリーダー兼任)、東京大学大学院工学系研究科の平山元昭特任准教授(理化学研究所創発物性科学研究センターのユニットリーダー兼任)、大阪大学大学院理学研究科の越智正之助教らによる研究グループと共同で行った。
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