東京大学と筑波大学の研究者らによる共同研究グループは、印刷が可能でバンド伝導性を示すn型有機半導体単結晶薄膜を用い、4.3MHzで動作する高速n型有機トランジスタを開発した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科と筑波大学数理物質系の研究者らによる共同研究グループは2020年11月、印刷が可能でバンド伝導性を示すn型有機半導体単結晶薄膜を用い、4.3MHzで動作する高速n型有機トランジスタを開発したと発表した。
有機半導体は、軽量で柔軟性があり、印刷技術で製造が可能なことから、シリコンに代わる次世代の電子材料として注目されている。既に、単結晶で10cm2V-1s-1を超える移動度を達成した有機半導体も開発されている。しかし、これらのほとんどが正孔輸送性(p型)である。
P型とn型の有機トランジスタを対にして用いる相補型有機デバイスを作製するためには、電子輸送性(n型)有機半導体が必要となる。しかし、「大気安定性の確保」や「効率良い電気伝導経路の形成が難しい」などの理由で、n型有機半導体の開発は遅れていた。
研究グループはこれまで、「高い移動度」を示し「大気安定性」と「熱ストレス耐性」を有する上、印刷法にも適したn型有機半導体材料「PhC2-BQQDI」を発表してきた。今回は、印刷法でPhC2-BQQDIの単結晶薄膜を形成しトランジスタを作製、低温での温度可変ホール効果を測定した。この結果、広い温度範囲でホール移動度と電界効果移動度が一致しており、理想的なバンド伝導性であることを確認した。
これまで、薄膜材料を気体(ガス)にして基板の表面に成膜をする「気相法」で作製されたn型有機半導体単結晶については、ホール効果を測定することで伝導機構を解明してきた。今回の研究により、印刷可能なn型有機半導体単結晶においても、理想的なバンド伝導を示すことが初めて明らかになったという。
研究グループは、PhC2-BQQDIを印刷し、有機単結晶薄膜を微細加工してn型有機トランジスタを開発。大気下において4.3MHzで動作させることに成功した。デバイス作製に、大面積印刷が可能な「連続エッジキャスト法」や「フォトリソグラフィ技術」を利用できることも分かった。
研究グループは今後、より高周波数帯での動作や、単結晶p型有機トランジスタと組み合わせた相補型有機デバイスの研究に取り組む計画である。
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