産業技術総合研究所(産総研)は、次世代パワー半導体用の高品質SiC(炭化ケイ素)ウエハーを低コストで製造するための技術開発に向けて、大型共同研究を始めた。ウエハーメーカーを含む民間企業17社や公的3機関と連携し開発に取り組む。
産業技術総合研究所(産総研)先進パワーエレクトロニクス研究センターウェハプロセスチームの加藤智久研究チーム長らは2021年3月、次世代パワー半導体用の高品質SiC(炭化ケイ素)ウエハーを低コストで製造するための技術開発に向けて、大型共同研究を始めた。ウエハーメーカーを含む民間企業17社や公的3機関と連携し開発に取り組む。
SiCパワー半導体素子は、Si(シリコン)パワー半導体素子に比べて、高耐圧で低損失といった特長を持つ。このため、新幹線や電気自動車(EV)などへの搭載が始まっている。一方で、高品質のSiCバルク単結晶成長やウエハー加工のプロセスにおいて、多くの時間とコストが必要となるなど、今後の本格普及に向けて解決すべき課題もあった。
そこで産総研は、民活型オープンイノベーション共同研究体「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC:Tsukuba Power-Electronics Constellations)」内に材料分科会を新設。産学官の連携によって、パワー半導体用SiCウエハーの量産に向けた製造技術を確立していくことにした。
今回の共同研究で取り組むテーマは、「次世代SiC結晶成長技術開発」と「次世代ウエハー加工技術開発」の2つである。SiC単結晶は現在、2000℃以上という極高温の気相雰囲気で成長させている。成長速度は1時間当たり500μmから数ミリで、Si単結晶成長と比較して100分の1以下という遅さである。致命的な結晶欠陥もまだ多いという。こうした中で、「次世代SiC結晶成長技術開発」プロジェクトでは、より高品質なSiC単結晶を高速に成長させる技術の早期確立を目指すことにした。
もう1つの「次世代ウエハー加工技術開発」プロジェクトでは、ウエハー加工プロセスの高速化と、ダイヤモンド砥材の省消費化を目指し、新たな加工技術を確立する。SiC単結晶は極めて堅く、これをウエハーに加工するため、切断から研磨の工程で多くのダイヤモンド砥粒を消費している。加工時間もSiウエハーに比べ6倍以上必要になるという。これらの課題を解決することで、コスト競争力を高めていく。
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