米国の半導体メーカーIntelは2021年3月、TSMCやSamsungと競争していく上で、ファウンドリー事業に参入することを発表した。まずは、200億米ドルを投じて米国アリゾナ州に半導体工場を設立するとしている。Intelの新CEO(最高経営責任者)であるPat Gelsinger氏は、「完全な独立した事業として『Intel Foundry Services(IFS)』を設立することにより、受託製造ビジネスに取り組んでいきたい」と述べている。
Reutersの報道によると、Gelsinger氏は、「われわれの計画は、政府支援を一銭もあてにしていない。これは、当社が前進していく上で正しい戦略だと考えている」と述べたという。
半導体の設計ソフトウェアや製造装置の多くは米国で製造されているが、世界の半導体チップのほとんどは台湾、韓国、中国企業が製造している。TSMCとSamsungによるチップ産業の支配が強まることは、地政学的にもビジネス的にも広範囲に影響を及ぼす。Samsungは北朝鮮の核攻撃の射程圏内にあり、台湾もまた中国による武力占拠の脅威にさらされている。
この1年で、北米や欧州の政府は、衰退する国内のチップ産業を立て直すことで、脆弱なサプライチェーンへのリスクを軽減する取り組みを始めた。また、ロイター通信によると、インド政府は、国内に半導体工場を建設する半導体メーカーに対し、10億米ドルの現金によるインセンティブを提供する計画だという。
バイデン大統領が提案した金額は、米国がチップ製造の“ゲーム”に復帰するために必要な金額には、恐らくまだ足りないだろう。IC Insightsのプレジデントを務めるBill McClean氏によると、成功のチャンスを高めるには、政府が少なくとも年間300億米ドルを5年以上にわたり支出する必要があるという。
TSMCのチェアマンであるMark Liu氏は、世界各国の政府が国内の半導体サプライチェーンの構築に取り組むことは、製造能力の過剰を招き、収益性を低下させる可能性があると指摘している。
台湾半導体工業会(Taiwan Semiconductor Industry)の会長も務めるLiu氏は、2021年3月に台湾で開催されたイベントで、チップ生産の自給率を高めるための世界的な取り組みは「経済的に非現実的だ」との見解を述べた。
Nikkei Asiaの報道によると、Liu氏は「全ての主要国が、インフラ向けや軍事/防衛向けのチップを国内で製造したがるのは理にかなっているが、サプライチェーンを全て国内に回帰させ、完全に自給しようとするのは全く効率的ではない。追加した生産能力は、利益を生まない生産能力になりかねない」と述べたという。
米政府は民間企業と協力してチップ生産を再開する必要があるが、現時点では、TSMCやSamsungが米国や欧州に投資することを奨励する形で支援するのか、国内メーカーに資金を提供するのか、あるいは両方のアプローチを組み合わせて支援するのかは、明らかでない。SamsungとTSMCは、政府のインセンティブを働きかける一方で、米国への投資を増やす計画を発表している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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