トポロジカル物質のFETで量子ホール効果を観測:離れた表面状態がワイル粒子で結合
東京工業大学らの研究グループは、作製したトポロジカル半金属の電界効果トランジスタ(FET)において、空間的に離れた表面の電子状態がワイル粒子によって結合し、量子化された3次元軌道運動として量子ホール効果を示すことを実証した。
東京工業大学と東京大学、理化学研究所の研究グループは2021年5月、作製したトポロジカル半金属の電界効果トランジスタ(FET)において、空間的に離れた表面の電子状態がワイル粒子によって結合し、量子化された3次元軌道運動として量子ホール効果を示すことを実証したと発表した。
トポロジカル半金属と呼ばれる新しいトポロジカル物質は、「ワイル粒子」として振る舞う物質内部の電子状態(バルク状態)と、「フェルミアーク」と呼ばれる物質表面に現れる電子状態(表面状態)が相互作用して、特異な伝導現象を実現する。
例えば、磁場中の電子はサイクロトロン運動を行う。これに対し、トポロジカル半金属は、2つの表面状態による半円弧上の運動と内部状態の往復運動が組み合わさった特殊な軌道運動となる。この伝導現象は、ワイル軌道とも呼ばれている。しかし、ワイル軌道による量子化伝導を直接的に実証した事例は、これまで報告されていなかったという。
上図は磁場中電子の二次元系におけるサイクロトロン軌道の描像。下図は3次元トポロジカル半金属におけるワイル軌道の描像 出典:東京工大他
打田氏らはこれまで、典型的なトポロジカル半金属である「Cd3As2」について、独自の成膜技術を開発し、表面量子化伝導の観測に成功してきた。さらに、その3次元性と実際の電子の軌道運動との関連性などについても研究してきた。
研究グループは今回、デュアルゲート型のFETを作製し、試料上下表面のキャリア濃度を電界によって独立に制御する実験を行った。3次元的なバルク状態による伝導が支配的な試料に対し、電界を印加して電子濃度を低減することで、表面状態が関わる量子ホール効果を観測できたという。
また、試料の上下に設けたトップゲートとバックゲートの電圧を独立に掃引、量子化したホール抵抗値の変化をマッピングした。この結果、従来のサイクロトロン軌道にみられるようなチェッカーボード状の模様ではなく、ストライプ状の模様を描くことが分かった。この模様は、電子の軌道運動が試料の表裏両方にまたがって存在するワイル軌道を示すものだという。
量子ホール効果のデュアルゲートに対する応答の違い。上図はトポロジカル半金属薄膜の表面と裏面にそれぞれに独立したサイクロトロン軌道を持つ場合。下図は試料全体にカイラリティの異なる2つのワイル軌道が形成されている場合 出典:東京工大他
左図はポロジカル半金属(Cd1-xZnx)3As2薄膜(x=0.7、膜厚75nm)においてデュアルゲートによる量子ホール効果をマッピングした結果。右図はバックゲート電圧(−5Vと−20V)における、トップゲート電圧(VTG)掃引に対するホール抵抗(Ryx)と一階微分(dRyx/dVTG)の変化 出典:東京工大他
今回の研究は、東京工業大学理学院物理学系の打田正輝准教授らによる研究グループと、東京大学大学院工学系研究科の川﨑雅司教授らによる研究グループおよび、理化学研究所創発物性科学研究センターの田口康二郎グループディレクターらによる研究グループが共同で行った。
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