Argo AIの称賛に値する点は、自社のLiDARを万能の解決策として市場に投入しているわけではないというところだ。ほとんど知られていないが、その妥協点は、技術そのものに本来備わっている。同社は、「LiDARを開発する上で、自動運転車の知覚担当チームが、LiDARに解決してほしい知覚関連の問題点と、それを解決するために必要な交換条件を、正確に把握することが不可欠だ」との見解を述べている。
大半の種類のLiDARは、例えば黒色の自動車のような、色の濃い対象物を検知することが難しいということが分かっている。
Little氏は、「例えば、対象物が白色の自動車の場合、LiDARの反射率は80%である。しかし、市場に出回っている色の濃い自動車の場合、反射率は1%を下回る」と述べる。
「そこでArgo AIは、無防備に左折する場合にどのような状況が発生するのかを検討した。その場合に必要なのは、自動車が接近しているかどうかを把握することである。200m先の対象物全体のうち10%を確認することができたとしても、なんの助けにもならない。Argo AIのLiDAR開発チームは、色の濃い対象物が道路のずっと先にあるというような場合でも、それを確認することが可能なLiDARを実現すべきだと考えた」(同氏)。
フランスの市場調査会社Yole Développement(以下、Yole)の市場/技術アナリストであるPierrick Boulay氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「全てのLiDARメーカーにとって重要な鍵となるのが、対象物の反射性である。反射性は、検出範囲に関連しているからだ。しかし、Argo AIのLiDARのように、単一光子検出器を使用すれば、対象物の反射性が低い場合でも、検知性能を向上させることができる」と述べている。
また同氏は、「その好例として挙げられるのが、2019年にドイツで開催された『フランクフルトモーターショー(Frankfurt Motor Show)』で披露されたデモだ。BMWが発表した『X6 Vantablack(ベンタブラック)』は、反射率が約1%だという塗装が施されていた。Ousterが、販売促進活動の一環として自社製LiDARのテストをこの自動車で行った結果、同社のLiDARはX6 Vantablackを認識することができたが、検出範囲が縮小されるということが分かった」と述べている。
「Argo AIのLiDARが、色の濃い対象物を認識する性能を実現する上で、1400nmを超える波長を使用しているという点も、1つの貢献要素となっている。波長を高めることは、対象物からどれくらいの反射率を得られるかを判断する上で重要な要素である」(Boulay氏)
Boulay氏は、「LiDARメーカーの大半は、905nmの波長を使用しているが、現在では1550nmの勢いが増してきている」と述べる。
さらに同氏は、「現在、長い波長の採用を進めている企業としては、LuminarやAEye、Cruise、Baraja、Aurora(Blackmoreを買収済み)、Scantinel Photonics(ドイツ・ウルム)、Innovusion(米国カリフォルニア州サニーベール)、SiLC(カリフォルニア州モンロビア)などが挙げられるが、これが全てではない。1550nmは今後、シリコンフォトニクスを使用するLiDARでの採用が進んでいくだろう」と付け加えた。
Boulay氏は、「波長の長いLiDARの主なメリットの1つとして、目の安全性確保にもつながるという点が挙げられる。波長の長いLiDARソリューションは、波長の短いLiDARと比べて、より多くのレーザーエネルギーを安全に低減することができるため、目の安全性を確保しながら検知距離を延ばすことが可能だ」と付け加えた。
ガイガーモードを採用しているのは、Argo AIのLiDARだけなのだろうか。
Boulay氏は、「われわれの知る限り、ガイガーモードを採用しているLiDARメーカーはほとんどないが、L3Harrisというメーカーは、広域全体で標高データポイントを収集するための飛行用途において、この技術を使用しているようだ」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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