米国政府は2020年に、米中間の貿易戦争の一環として、Huaweiの子会社であるHiSiliconをスマートフォン向け半導体チップ市場から締め出す措置を取った。こうしてHiSiliconによって残された空白を、QualcommとMediaTekが埋めている。
米国政府は2020年に、米中間の貿易戦争の一環として、Huaweiの子会社であるHiSiliconをスマートフォン向け半導体チップ市場から締め出す措置を取った。こうしてHiSiliconによって残された空白を、QualcommとMediaTekが埋めている。
中国政府の後押しを受けていたHuaweiと、その半導体設計部門であるHiSiliconは2020年7月頃、トランプ前大統領が半導体ファウンドリーのTSMCに対し、HiSiliconへの半導体供給を禁止していたにもかかわらず、世界スマートフォン市場においてトップの座を獲得し、5G(第5世代移動通信)事業でも優位性確立に向けた態勢を整えていた。
TSMCにとってHiSiliconは、売上高全体の約15%を占め、Appleに次ぐ最大顧客だった。しかし現在、TSMCはHiSiliconに半導体チップを供給していないため、その大きな空白地帯がQualcommとMediaTekに残されることになった。
米国の市場調査会社Strategy Analyticsによると、2021年第1四半期のスマートフォン向けアプリケーションプロセッサ(AP)市場の売上高シェアは、Qualcommが40%、次いでMediaTekが26%、Appleが20%だったという。
Strategy AnalyticsのアナリストであるSravan Kundojjala氏は、「2021年第1四半期の世界スマートフォン向けAP市場は、貿易戦争によって変化した。QualcommとMediaTekはいずれも、HiSiliconが貿易規制のためにスマートフォン向けAP市場から強制的に追放されたことによるメリットを、最大限に活用したといえる」と述べる。
Strategy Analyticsによると、2021年第1四半期の世界スマートフォン向けAP市場は、対前年比で21%成長し、68億米ドル規模に達したという。同四半期におけるスマートフォン向けAPの出荷数量全体のうち、5G対応APが41%を占める。また、Qualcommの「Snapdragon 480」やMediaTekの「Dimensity 700」のようなエントリーレベルの5G対応APが登場したことにより、5G対応スマートフォンの価格は2021年中に下がっていく見込みだ。
Kundojjala氏は、「今後も5G対応APが増加し、ポストパンデミックの需要も高まっていくとみられることから、2021年を通して成長傾向が続くだろう」と述べている。
また、Strategy Analyticsのレポートによると、2021年第1四半期におけるHiSiliconのスマートフォン向けAPの出荷数量が88%も急激に減少していることから、Huaweiが生き残りをかけた戦略として、HiSiliconのスマートフォン向けチップ事業をスピンオフする可能性があるという。
Huaweiは、半導体および最先端のエレクトロニクス製品市場における主要プレーヤーとしての位置付けを、たとえそこに5G通信分野が含まれないとしても、断固として維持していく考えのようだ。
同社のディレクター兼シニアバイスプレジデントを務めるCatherine Chen氏は、Nikkei Asiaのインタビューに応じ、「当社としては、半導体チップ設計の子会社であるHiSiliconの事業再建を行うつもりはない」と述べている。
2020年時点で7000人以上の従業員を抱えるHiSiliconは、外部からの影響を受けない非上場企業であり、Huaweiの経営陣はHiSiliconを維持するつもりだと、Chen氏は語っている。
Nikkei Asiaの報道によれば、Huaweiは、米中ハイテク戦争が当面続くことを予想して、研究センターで独自の技術を開発しているという。Chen氏は「HiSiliconは、米国の技術に頼らない独自の半導体業界を推進する国で、新たなサプライチェーンパートナーを獲得するだろう」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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