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東北大ら、酸化物蓄電材料の酸素脱離現象を解明さまざまな電池材料にも適用可能

東北大学と高輝度光科学研究センターの共同研究グループは、リチウムイオン電池に用いる酸化物正極材料から、酸素が抜ける現象を詳細に評価し、そのメカニズムを解明した。高い安全性が求められる次世代蓄電池への応用が期待される。

» 2021年06月29日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

クーロン滴定法とX線吸収分光測定を組み合わせて評価

 東北大学多元物質科学研究所の雨澤浩史教授と中村崇司准教授、木村勇太助教および、高輝度光科学研究センターの為則雄祐主席研究員と鶴田一樹研究員らによる共同研究グループは2021年6月、リチウムイオン電池に用いる酸化物正極材料から、酸素が抜ける現象を詳細に評価し、そのメカニズムを解明したと発表した。高い安全性が求められる次世代蓄電池への応用が期待される。

 リチウムイオン電池では、酸化物正極材料(リチウム−遷移金属複合酸化物)から抜けた酸素が電解液などと反応し、蓄電池内部でガス発生や異常発熱などを引き起こすことが分かっている。しかし、酸素脱離現象のメカニズムなどはこれまで明らかになっていなかった。

 そこで共同研究グループは、酸化物正極材料「LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM111)」を用い、クーロン滴定法によってNCM111の酸素脱離現象を評価。X線回折測定を行い、酸素脱離に伴う結晶構造の変化を明らかにした。

 これらの結果から、「NCM111は約5mol%の酸素を格子から失っても還元分解しない」ことや、「酸素脱離が進行するほどLiとNiが格子位置を交換し、もともとの層状構造が乱れてランダム化する」ことが分かった。これらの現象は酸素脱離により電池特性が悪くなることを示すもので、実験でも還元処理によって充放電容量が低下することを確認した。

クーロン滴定法の実験装置模式図とLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2の酸素脱離挙動 出典:東北大学他

 さらに、大型放射光施設「SPring-8」のBL27SUを用いたX線吸収分光測定により、酸素脱離時の還元挙動を評価した。これにより、「NCM111は酸素脱離の初期段階では、Ni3+が選択的に還元する」「Niの還元が止まるとCo3+が還元し始める」。また「5mol%程度の酸素脱離でMnは価数変化しない」ことが分かった。

 これらの結果から研究グループは、「高価数状態のNi3+が、材料中の酸素を不安定化させ、酸素脱離を促進する」と推察した。この仮説を検証するため、意図的にNi3+量を増加させたNCM111を準備して、その酸素脱離挙動を評価した。これにより、Ni3+が多い材料では、通常の材料よりも酸素脱離が活発に起こることを確認した。

左は軟X線吸収分光測定による酸素脱離時の還元挙動の評価、中央はNiL吸収端スペクトル、右はNi3+増加による酸素脱離の促進 出典:東北大学他

 これらの結果に基づき研究グループは、遷移金属が高価数状態にあることが酸素の不安定化につながるという新たな仮説を提唱した。遷移金属酸化物はリチウムイオン電池に加え、さまざまな次世代型蓄電池(Naイオン電池、Kイオン電池、Mgイオン電池、アニオン電池など)にも使われる材料である。今回用いた評価手法は、これら次世代型蓄電池材料にも適用することが可能だという。

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