Arm Researchと英国のケンブリッジに拠点を置くPragmatICは2021年7月、英科学誌「Nature」に掲載された論文の中で、フレキシブル基板上でTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)を使って製造した、「Arm Cortex-M0」ベースのフレキシブルなSoC「PlasticArm」について詳細を明らかにした。
Arm Researchと英国のケンブリッジに拠点を置くPragmatICは2021年7月、英科学誌「Nature」に掲載された論文の中で、「Arm Cortex-M0」ベースのフレキシブルなSoC「PlasticArm」について詳細を明らかにした。フレキシブル基板上でTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)を使って製造されている。
このソリューションはまだ実用化の段階ではないが、組み込みマイクロプロセッサ向けとして非常に大きな可能性を秘めていることから、さまざまな日常製品向けにインテリジェンスを提供できるとみられている。
論文の共著者で、Arm Researchの著名なエンジニアであるJohn Biggs氏は、今回の製品開発について、「超低コストのマイクロプロセッサが実用化されれば、あらゆる種類の市場において、スマートセンサーやスマートラベル、インテリジェントパッケージングなどをはじめとする、興味深いユースケースの実現に向けた道が開かれるようになるだろう。こうしたデバイスを使用する製品は、食品廃棄物の削減によって持続可能性の実現をサポートしたり、スマートなライフサイクルトラッキングによって循環型経済の推進をサポートすることなどが可能だ。私個人としては、特にヘルスケア分野に最も大きな影響が及ぶのはないかとみている。この技術により、人間の皮膚に直接貼り付けることが可能な、インテリジェントな使い捨てヘルスモニタリングシステムの構築をサポートできるだろう」と述べている。
フレキシブルなエレクトロニクスデバイスは、紙やプラスチック、金属箔などの代替基板上に構築されているという点で、既存の半導体デバイスとは異なる。有機物や金属酸化物、アモルファスシリコンなどの薄膜半導体材料を使用することにより、シリコンにはない特性として、薄型化や適合性、製造コストの低減などを実現できる。TFTは、フレキシブル基板上で製造できるため、シリコンウエハー上で製造するMOSFETと比べて、コストを大幅に削減することが可能だ。
米国EE Timesは、論文のもう一人の共著者であり、PragmatICの技術部門担当シニアバイスプレジデントを務めるCatherine Ramsdale氏にもインタビューを行った。同氏は、「この技術は基本的に概念実証(PoC:Proof of Concept)であり、実行可能なことや、対応可能な複雑性などを示している。当社は2013年からArmとの間で共同開発に取り組み、今やこの技術を、ある程度のゲート数を達成できるレベルまで高め、エコシステムを整えるに至った」と説明する。
Arm ResearchとPragmatICは2013年に、Armベースのフレキシブルプロセッサの実現に向けた取り組みを開始し、まずはリング発振器やカウンタ、シフトレジスタアレイなどの試作回路の構築に着手した。センサーやメモリ、発光ダイオードなどの一部のフレキシブルコンポーネントの試作が行われたが、これまで完全なフレキシブルエレクトロニクスの実現を妨げる主な要因となっていたのが、フレキシブルマイクロプロセッサだ。
Armによると、取り組み開始から数年後に、PragmatICの製造システム「FlexLogIC」を利用できるようになった他、同じセルライブラリやツールフロー、プロセス技術などを使用する「PlasticArmPit」プロジェクトが進展したことなどもあって、パズルの全てのピースがうまく収まったという。両社のメンバーで構成された開発チームは、再挑戦すべき時が来たと判断し、2020年10月に、業界初となる完全に機能的な非シリコンのArmプロセッサ「PlasticArm」を開発したと発表するに至った。
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