2021年6月、経産省は「半導体・デジタル産業戦略」を公表した。経産省がどのようなことを半導体産業界に呼び掛けているのか。それに対して現状の半導体業界はどうなのか、私見を織り交ぜて分析してみたい。
本連載の前々回に、「今こそ、日本の大手電機各社は半導体技術の重要性に気付くべき」と執筆したところ、拙著記事に賛同の意見を多くいただいた。非常にありがたいことで、励みにもなった。ただ、なかには「賛同するが、多くの日系電機メーカーはもう半導体へのモチベーションを再燃させることはできないのではないか」というシビアなご意見もあった。筆者としても、そういう懸念があるからこそ、このような記事を執筆したわけだが、実際に経産省がどのようなことを半導体産業界に呼び掛けているのか。それに対して現状はどうなのか、私見を織り交ぜて分析してみたいと思う。
2021年6月4日、経産省が公表した「半導体・デジタル産業戦略」には、以下のような半導体戦略が記述されている。
まず「戦略1:先端半導体製造技術の共同開発とファウンドリの国内立地」についてだ。具体的には、以下のようなことが挙げられている。
これらは正直に申し上げて、上述の4つの戦略の中で現実との乖離(かいり)が最も激しい戦略、と言わざるを得ない。特に2nm以降を想定した最先端プロセスや3Dパッケージは、国内に需要が見込めず、海外の大手半導体メーカー向け支援策として評価されれば御の字ではないだろうか。
一部の装置メーカーや材料メーカーは、最先端プロセスを求める海外顧客のために開発を続けるだろうが、これを国家プロジェクトとして考えるべきなのか。日本の半導体メーカーが必要としない、はっきり言えば使いこなせない技術に対して、大きなリソースを割くことには賛同できない、というのが筆者の意見だが、いかがだろうか。
次に「戦略2:デジタル投資の加速と先端ロジック半導体の設計強化」についてだ。
これは戦略1に比べてかなり現実的で、官と民が協力して進めるべき内容だと思う。特にポスト5G情報通信システムにおける半導体の設計開発は、かつてASIC事業に積極的に取り組んでいたNECや富士通には真剣に対応してもらいたい。実際に富士通はスーパーコンピュータ「富岳」を設計する上で自社内の半導体技術やノウハウを合わせて駆使したからこそ、世界に誇れるスパコンを生み出すことができたはずである。
NTTグループは、次世代通信やコンピューティングで有望視されている光エレクトロニクスに関して、世界最先端の技術を有している、という評判が海外からも聞こえてくる。
戦略2は、中心となりそうな民間企業がハッキリしていて、モチベーションもありそうなので、今後具体的な施策を進めていただきたいと考えている。
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