次に「戦略3:半導体技術のグリーンイノベーション促進」について。
この戦略の具体策の中には戦略2と重複する項目もあるが、ここでは化合物パワー半導体への取り組みが追加される。やはり現実的な内容で、戦略2と同様、中心になりそうな民間企業がハッキリしていて、モチベーションもありそうであり具体的な施策を進めるべきだと言えよう。
次世代を見据えて化合物半導体に取り組むことはもちろん大事だが、筆者としてはあえて、既存パワーデバイスであるIGBTやMOSFETの300mmウエハーでの量産についても、取り組むべき施策の1つと考えている。日系企業が比較的高いシェアを維持している分野であること、海外勢が300mmウエハーへの移行を進めている中で日系各社の対応が遅れていること、などを踏まえ、官と民が協力して何をすべきか、検討していただきたいと思う。
最後に「戦略4:国内半導体産業のポートフォリオとレジリエンス強じん化」について。
大学と企業の連携や人材育成を政府がサポートしてくれるのであれば、非常に有意義な取り組みだ。ユーティリティコストを下げる支援も大歓迎である。しかし、サプライチェーンの強じん化、工場の立地対策、既存工場の刷新などは、政府が掲げる施策としてはあまり現実的ではないだろう。民間企業側に工場の立地計画がすでにあって、それを補助金などで国内に誘致する、というのなら分かる。しかし政府側から企業に対して立地や刷新をそそのかしたところで、あまり意味はない。日系企業の半導体事業に対するモチベーションをどうすればかき立てられるか、が重要なポイントであり、施策にはその点の留意が必要だろう。
経産省としては「日本の半導体産業はどうあるべきか」という視点から、目指すべき姿と現実の乖離に焦点を当てて、上述のような戦略を立案したのだろう。筆者としてはこれに異論を挿むつもりはない。ただ、日系電機メーカーの多くが半導体事業に対するモチベーションを失っていること、巻き返そうとしても、半導体関連の経営資源を売却あるいは解体してしまっていること、などを考えると、冒頭に紹介したコメントのように、再燃させるには根性論だけでは済まされない問題も含まれている。特に日本は半導体量産工場の閉鎖件数が世界で最も多い、という不名誉な実績もある。そのため新たに量産工場を立地しようという話になると、今後の継続性も含めて慎重な議論になりやすいことは、想像に難くない。
経産省が公表した半導体戦略は、すぐに着手すべき案件から2050年までを見据えた案件まで、幅広い時間軸に渡って構成されている。これらの案件は、民間企業各社のモチベーションをいちいち確認しながら、あるべき方向へと誘導していくしかないと思う。
筆者としては、4つの戦略のうち「戦略2:デジタル投資の加速と先端ロジック半導体の設計強化」と「戦略3:半導体技術のグリーンイノベーション促進」に民間企業のモチベーションと現実性を強く感じる。この2つの戦略を重点的に進めていただくことが得策だと考えている。一方で、これらの項目に該当する戦略を立てられる民間企業においては、ぜひとも戦略の具現化をお勧めしたい。もちろん、私自身もそうした企業の戦略立案、実施を支援できればと思っている。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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