京都大学は、室温環境でハライドペロブスカイト半導体CsPbBr3ナノ粒子にレーザー光パルスを照射すると、照射している間は可視光領域の光が高速に変調され、近赤外領域のレーザー光では変調が特に大きくなる現象を発見した。
京都大学化学研究所の金光義彦教授や湯本郷同特定助教、廣理英基同准教授、寺西利治教授らによる研究グループは2021年5月、室温環境でハライドペロブスカイト半導体CsPbBr3ナノ粒子にレーザー光パルスを照射すると、照射している間は可視光領域の光が高速に変調され、近赤外領域のレーザー光では変調が特に大きくなる現象を発見したと発表した。
レーザー光パルスを原子や分子に照射すると、「光シュタルク効果」によって電子状態を高速に制御することができる。固体でもこの効果は得られることが分かっている。ところが従来の半導体ナノ構造だと、大きな光変調が得られるレーザー光の波長領域は限定的で、しかも低温の環境が必要であった。
研究グループは今回、ハライドペロブスカイト半導体に着目した。大きな光シュタルク効果が得られ、大きなスピン軌道相互作用に起因する多準位電子状態を持つためである。具体的には、室温環境でCsPbBr3ナノ粒子にレーザー光を照射し、ポンププローブ分光測定を行った。
CsPbBr3ナノ粒子は、可視光領域のポンプ光を照射すると光シュタルク効果でバンド端電子状態の間隔が大きくなり、プローブ光のスペクトルが変化することを確認した。
一方で、近赤外領域のポンプ光(特に光通信帯波長)を照射すると、バンド端電子状態の間隔は再び大きく変調されることを発見した。この振る舞いは、従来の光シュタルク効果による予想とは異なるものだという。
また、近赤外領域の光では「二光子励起」と呼ばれる電子の実励起が起きないことも分かった。このため、変調量が大きい超高速光スイッチングを実現できる可能性が高いという。さらに、近赤外領域における光変調量の増大が、「アウトラー・タウンズ効果」を起源としたもので、スピン軌道相互作用に由来した高エネルギーの電子状態が、これらの現象を引き起こしていることも明らかとなった。
今回の研究成果を活用することで、新たな光スイッチングデバイスや光変調技術の開発が進み、スピン軌道相互作用に着目した新たな光・物質相互作用の設計手法を確立することにつながるとみられている。
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