チップ設計の完全な自動化は可能だろうか。AI(人工知能)は、チップ全体を設計および最適化する「人工アーキテクト」として機能できるだろうか。米国の大手EDAベンダーであるSynopsysのCEO(最高経営責任者)を務めるAart de Geus氏は、「Hot Chips 33」(2021年8月22〜24日、バーチャル形式で開催)の基調講演で、この疑問に、はっきり「イエス」と答えた。
チップ設計の完全な自動化は可能だろうか。AI(人工知能)は、チップ全体を設計および最適化する「人工アーキテクト」として機能できるだろうか。
米国の大手EDAベンダーであるSynopsysのCEO(最高経営責任者)を務めるAart de Geus氏は、「Hot Chips 33」(2021年8月22〜24日、バーチャル形式で開催)の基調講演で、この疑問に、はっきり「イエス」と答えた。
Synopsysは、EDAツールにおけるAIの活用に長年取り組んできた(De Geus氏によると、現在、Synopsysのツールは全て、何らかの形でAIを使用しているという)。同社の旗艦製品であるAI搭載ツール「DSO.ai」は、2020年に発売された。DSO.aiは、チップ設計のジオメトリの全タスク、つまり設計のあらゆる物理的側面に対応している。これに対し、AIベースの他のツールには、同タスクの一部にしか対応しないものもある。DSO.aiは、現在の設計空間探索プロセスの次のステップとしてSynopsysが構想する「設計空間最適化(Design Space Optimization)」にちなんで名付けられた。
タスクのサイズを侮ることはできない。場所とルートの探索空間だけでも10の9万乗で、囲碁における探索空間の10の360乗と比べても桁違いに大きい。
Synopsysの技術は、「強化学習」と呼ばれる手法をベースにしている。この手法はディープラーニングの1つのバージョンで、膨大なデータを必要としない。その代わりに、システムはゼロからスタートして、ランダムにチップを設計し、どれだけうまくできているかを毎回評価する。時間をかけて、試行錯誤しながら非常にたくさんのチップを設計してスコアの最適化を目指すことで、チップ設計をゼロから効果的に学習する。この手法では、Synopsysはアルゴリズムをトレーニングするために膨大なデータ(この場合、顧客のIPであるチップ設計)にアクセスする必要がない。
顧客はこれをさらに一歩進めて、Synopsysの強化学習アルゴリズムに「教師あり学習」を追加することで、さらに優れた結果を得ることができる。AIは、顧客が過去にテープアウトしたチップから学習することができる。De Geus氏はHot Chipsのプレゼンテーションで、この手法によって、AIが最適設計にはるかに速く近づけることを例示した。トレーニングされたDSO.aiで顧客向けのCPUを設計すると、専門家チームのメンバーが最大限努力した場合と比べて総電力を9〜13%、リーク電力を30%削減し、2〜5倍速く最適設計に近づくことができた。同プロセスは、エンジニアが1人で監督したという。
de Geus氏は米国EE Timesが最近行ったインタビューの中で、AI設計チップによってもたらされる多大な影響について語っている。
同氏は、「これまで度々、『設計は、ムーアの法則に歩調を合わせてきた』という見解を耳にしてきた。しかしこれは見方を180度転換させて、『技術は、設計で実現可能なものに対して歩調を合わせてきた』とすべきではないか。Synopsysは、何か飛びぬけて素晴らしいものを実現する責任がある」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.