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AIは人間より優れたチップ設計ができるか?Synopsysの「DSO.ai」(3/3 ページ)

» 2021年10月27日 11時30分 公開
[Sally Ward-FoxtonEE Times]
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AIは、次なるレベルのオートメーション

 DSOは、ある顧客設計において、人間の専門家チームによるベストエフォート設計に対し、単独で消費電力量を約5%削減することができたという。AIにクロックへの同時アクセスを許可したことにより、さらに13%の削減を達成した。またAIに対して、チップ上で動作するワークロードであるアプリケーションソフトウェアの最適化を許可したことにより、ピーク電力をダイナミックに回避して、設計によって消費される電力量全体の10%を削減することができた。

 最終的には、全てAIで実行することにより、全体の消費電力量を25.6%を削減したという。つまりAIは、半導体チップの設計に必要な時間を迅速に短縮できただけでなく、劇的に優れた成果を達成することができたのだ。

SynopsysのAIツールを使用したチップ設計の消費電力と性能に関する顧客の結果。人間のベストエフォートは黄色の三角形。DSOツールは白い点、AIにクロックスキームを変更させると緑の四角、AIにアプリケーションソフトウェアを制御させると紫の点になる[クリックで拡大] 出所:Synopsys

 AIにクロッキングスキームの変更を許可することは、大きな節目となるだろう。AIは、厳密な物理領域から、通常人間のアーキテクトが担当するものとされているマイクロアーキテクチャ決定へと進出してきた。

 de Geus氏は、「AIに新しいマイクロアーキテクチャ機能が搭載されても、設計プロセスには今後も必ず人間が関与することになるだろう」と明言している。同氏の見解は、「AIは、次なるレベルのオートメーションであり、より進化したツールとして使うことができるものと見なすべきだ」ということだろう。

 業界では通常、テープアウトに18〜24カ月を要することから、SynopsysのAIアーキテクトによって実現した高速化は、常に重要だといえる。このようにプロセスが劇的に凝縮されたことで、どのような波及効果が期待できるのだろうか。

 de Geus氏は、「全て良いニュースだといえる。議論の糸口として、例えばもし何かを半分の時間で実行することができる上、手作業で行う場合よりも優れた成果を少ない人手で達成できるのであれば、それはつまり、今やそれぞれのバーティカルに向けたチップを実行できるようになったということだ」と述べている。

 「ASSP/ASICモデルは、半導体メーカーにとってさらに魅力的なものになり、人気が急激に高まっていくだろう」(de Geus氏)

 また同氏は、「中には、ソフトウェア定義された半導体チップではないかという声が上がるかもしれない。このチップ上で実行することにより、成功の基準が何であるかを判断したいためだ。またAIは、パワーバジェットの範囲内で成功を実現するために、アプリケーションソフトウェアを調整することも可能だ」と述べる。

 AIツールを使って短期間で実証された合計25.6%の省電力化は、プロセスノードを1つ、あるいは2つ下げたのと同等の効果があるという。

 AIツールは、ムーアの法則を延ばすのに役立つのか、それとも、より進んだプロセスノードからより多くの性能を引き出すのに役立つのか。この問いにde Geus氏は、「そのどちらもだ」と答えている。

 「DSOのような改善が突然得られたとき、“次のノードに移行する必要があるのだろうか”という疑問が生じるかもしれない。だが、われわれは先人たちの答えを知っている。『もちろん次のプロセスノードに移行してDSOを使う』と答えるはずだ」(de Geus氏)

【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】

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