横浜国立大学とTDKは2021年9月6日、高感度磁気センサーを活用した画像診断技術を開発したと発表した。腫瘍や組織をより高感度で検出できる可能性がある。
横浜国立大学とTDKは2021年9月6日、高感度磁気センサーを活用した画像診断技術を開発したと発表した。腫瘍や組織をより高感度で検出できる可能性がある。
今回開発した技術は、磁気粒子イメージングと呼ばれる手法に向けたもの。画像の濃淡によって組織や腫瘍を判別するMRI(磁気共鳴画像)やX線CTとは異なり、磁気粒子イメージングは、腫瘍や血管に集まった磁気粒子を体外から検出して画像化する。2005年に提案された手法で、欧米ではウサギやネズミなど小型動物向け(動物実験向け)の装置は市販*)されているものの、大型化が非常に困難なことから、人体に適用できる臨床装置は実現されていない。
*)Brukerと米国のスタートアップMagnetic Insightが手掛けている。
磁気粒子(磁性ナノ粒子とも呼ばれる)は、10nm程度の酸化鉄(Fe3O4、γ-Fe2O3)だ。酸素も鉄も人体に含まれていることから、磁気粒子は生体適合性を持っており、磁気粒子を含んだ液体はMRI造影剤(肝臓がん検査)として使われている。
上の図は、磁気粒子イメージングの原理である。外から交流磁界を印加すると、それに応答して、腫瘍や血管に集まった磁気粒子の磁化が回転し、磁化信号(磁界)を発する。その磁化信号によって変化した検出コイルの誘導起電力を測定するのが現在の主流となっている。横浜国立大学 大学院工学研究院の竹村泰司教授は「磁化信号を高感度に検出できれば、磁気粒子を含んだ液体を使う量が少なくて済む。そのため、いかに高感度に検出するかが重要になる」と語る。
そこで竹村教授らが活用したのが、TDKの高感度磁気センサーだ。TDKの高感度磁気センサー(磁気抵抗効果磁気センサー:MR磁気センサー)は、ピコテスラ級の検出感度を実現する。地磁気の強さが約40〜50μT(マイクロテスラ)、スマートフォンに搭載されている磁気センサーの感度がマイクロテスラ級であることを考えれば、“ピコテスラ”を検出するということが、いかに高感度であるかが分かるだろう。
今回発表した手法では、検出コイルに加えて2次コイルを用意し、その2次コイルの中にMR磁気センサーを設置する。そして、2次コイルに発生する磁界をMR磁気センサーで検出する。1次コイルと2次コイルがあるので、トランスとして使うようなイメージだ。これにより、従来手法では得られなかった、磁気粒子(直径3mmのサンプル)の明瞭な画像を得ることができたという。印加磁界強度は10分の1に低減された。
竹村教授によれば、もう一つの手法として、磁化信号をMR磁気センサーでダイレクトに測定するアプローチも開発中だという。この方法であれば検出コイルが不要となる。
竹村氏は、「今回、TDKのMR磁気センサーを使うことで、磁性粒子をより高感度に測定する技術を確立することができた。今後は人体の頭部や全身に適用できるサイズを実現するための実験を進めていく。それにより臨床装置への適用が期待される」と語った。
TDKの技術・知財本部 応用製品開発センター センサ・アクチュエータ開発部で部長を務める笠島多聞氏は、「コイルは巻き数を上げれば感度が上がるが、当然重く、大きくなる。その点、MR磁気センサーは小型のままで使えるので装置の小型化に貢献できる」と述べる。なお、笠島氏によると、TDKのMR磁気センサーは2022年6月をメドに量産を開始する予定だ。
一方で、臨床装置への適用、つまり実用化は「容易ではない」と竹村氏は述べる。磁気粒子イメージングでは、磁界発生コイルが欠かせない。仮に上記で触れた、コイルを使わずにMR磁気センサーで磁化信号を測定する手法が確立されたとしても、磁界発生コイルは必要になる。そのため、現行技術では、BrukerとMagnetic Insightが販売する小動物用の磁気粒子イメージング装置でさえ、MRI装置ほどの大きさがある。それを人体に適用するとなると、相当大掛かりな装置となり、現実的ではない。
竹村氏らは、頭部の血管造影用にヘルメットのような磁気粒子イメージング器具を試作したが、それですら、700巻のコイルが搭載されている。
臨床装置への適用には課題があるとはいえ、磁気粒子をより高感度に検出できる技術を確立した意義は大きい。MRIやX線CTに続く「新しい画像診断技術を提案したい」と竹村氏は語った。
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