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STEMを取り入れた「夏休みの自由研究」型パッケージ教育のすすめ踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(15)STEM教育(3)(4/8 ページ)

» 2021年09月29日 16時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「日本人の多くは理系科目が嫌いである」

 では、ここから後半「STEM教育」に入ります。

 私は前回、STEM教育について、以下の仮説を上げていましたが、どうやら、「理系研究員としてのおごった見解」というわけではないようです。

 「夏休みの自由研究」という小さな話題から展開した論ではありましたが、ここで一つ、はっきりさせたいと思います。

―― 私たち日本人の多くは、STEM教育についてうんぬんを語る以前に、そもそも、理系科目が『嫌い』である

ということです。

 「苦手」「不得意」「欠点」「短所」「泣き所」「ウイークポイント」「弱点」「鬼門」というレベルではなく ――紙の色が変わるだけの理科の実験、ただ上下振動するだけのバネ、100万年前の大陸の場所、どっちでも構わない核分裂と核融合 ―― こんなことを繰り返されて、理系科目に対する、「嫌悪」とか「憎悪」とか「反感」に近い感情が、子どものころから育てられ、そして、それが、ほぼ大人になって完成している ―― ように思えます。

 もちろん、全ての子どもが、そのように思っている訳ではないとは思いますが、我が国の文系:理系の大学出身者数比率7:3は、この傍証になっていると思います。

 ただ、この「理系嫌い」の理由については、

(1)「『夏休みの自由研究』のように無責任に放置された課題によって、子ども(と保護者)が虐待されている状況
(2)「理系に愛されない子どもは何をしても愛されない」という信念
(3)理系的知見のない保護者は、同じく理系的知見のない子どもを育てるという誤解
(4)そもそも、理系の勉強は難しいし、面倒くさい、という事実

など、いろいろなことが言えると思うのですが ―― いくら仮説を出したところで、結局のところ「理系嫌い」が改善される訳ではありませんし、夏休みの自由研究が、これからも、子どもと保護者を悩ませ続ける状況は改善されないでしょう。

STEM教育は、始まる前から破綻している?

 前回のコラムで、私は、STEM教育を、「「科学・技術・工学・数学」をバラバラに単独として教えるだけではなく、それらを「組み合わせて使う方法」と、その方法を、座学(講義)だけでなく、「現実世界のケースに適用して学ばせる」実践的な教育」と定義しました。

 面倒なので、短縮形として「科学・技術・工学・数学」という必要な食材を、大鍋に入れて、ごった煮として取り扱う方法(メソッド)を学ぶ教育」 ―― さらに縮めて

出典:下野新聞社

「ごった煮型理系教育」

と称呼しても差し支えない、と考えています*)

*)英訳すると、"Hodgepodge(ホッジポッジ)-style science education"となるようです。

 しかし、その「理系ごった煮教育(STEM教育)」は、その前提として、理系科目が『嫌い』ではないことが必須です。しかるに、ここまでで述べてきたように、我が国の現状は、STEM教育云々(うんぬん)を語る以前の状況にあるのです。

 とすれば、そもそも、STEM教育は、それを開始する前から既に破綻している、というべきでしょう。そして、不思議なことに、この我が国の「我が国のマジョリティーの理系嫌悪」が、ちまたのSTEM教育論では、見事なほど完璧に無視されているのです ―― 「見ないフリ」をしているのかもしれませんが。

 ただ、この結論のままですと、私の連載が終了してしまって、それはそれで、私が大変困ることになります。ですから、私は、大きな伏線を張っておいたのです ―― それが、前半の「プログラミング的思考、大絶賛」という壮大な前フリです。

 では、ここからは、「STEM教育は、それを開始する前から既に破綻している」をひっくり返す、理論展開を試みたいと思います。



 以下の図は、「リカレント教育」のコラムのなぜ、初等教育の段階から「収入に直結する実学」を教えないのかで使ったものです。

 学校教育の目的は

(1)「『パソコン本体』に対応する、『心身共に健康で頑強な肉体』」であり
(2)「『超高速大量の入出力信号をさばくOS』に対応する、『様々な知識や技術から作られた知能基盤』」であり
(3)「『インストールしてすぐに使うことのできるアプリケーション』に対応する、『収入に直結する実学』」

となります。

 この3つの層で完成している「パソコン」も「教育」も、低コストかつ短期間でさまざまなアプリ(教科)やらサービス(業務)やらを、利用可能とできる点において、優れていると言えます。

 ただ、一つ問題があります。最初からこのアーキテクチャの「上位層」の部分だけを作ることはできない、ということです。「下位層」から作っていかなければ「上位層」を作れないのです。それは、OSのないパソコンにアプリをインストールすることができないことと同じことです。

 そして、「パソコン」も「教育」も、この「下位層」を作る作業が、実に面倒くさいのです。特に人間の場合は、ハードウェア(身体)とOS(基礎学力)を自力で作らなければなりません。学校教育のコンテンツは、パソコンショップや通販で買ってくることはできないのです。

 「教育」の「下位層」を作ることは、しんどいし、楽しくないし、そして、大して評価もされません(あの、計算ドリルとか漢字の書き取りを思い出してください)。そして、その最もつらく、楽しくもない作業を、人生で最も忍耐力のない子どもに強いらなければならない点に、この教育アーキテクチャのジレンマがあります。

 では、この、最もつらい「下位層」を作る作業が、STEM教育(またはプログラミング教育)でラクチンになる、としたらどうでしょうか? これは十分に検討してみる価値があるのではないでしょうか。

IT系が食い込んできた? 「大人になったらなりたいもの」

 さて、ここで一つ、子どもたちが「大人になったらなりたいもの」調査結果をご覧頂きたいと思います。この情報を、私の視点でグラフでまとめてみました。

 驚いたことに、近年、男子においては「IT系」の人気が高くなっています。"YouTuber"は、ITへの深い知識なしには成立しない職業なので、IT系でくくっています(もっとも小学生がそこまで考えているかは不明ですが)。

 さらに驚いたことには、女子においては「IT系」について影も形も見えない、ということです。「漫画家」と「アイドル」は、"IT"でくくれるかと、入れてみました*)が、正直無理があると思います。

*)これからの漫画家は「ペンタブ」を普通に使うだろうし、いまどきのアイドルも、生き残るために、自力でYouTubeのコンテンツ編集や情報発信をするだろう、と考えました。

 もっとも、これからの時代、スマホやPC抜きの仕事は考えられないので、全ての子どもたちに、ITに関する知識と運用が必要となることは間違いないのですが、『ITを作る側で食っていく』というスタンスは、(現時点では)女子には見られません。

 そもそも「プログラミング」というものに人生で一度も関わったことのない子どもに、「プログラミングに興味を持て」というのは無茶というものです(男子は、何も考えていないのか、深く考えていないだけかもしれません)。

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