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STEMを取り入れた「夏休みの自由研究」型パッケージ教育のすすめ踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(15)STEM教育(3)(5/8 ページ)

» 2021年09月29日 16時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「課題解決型の教育方式」への転換

 まあ、課題山積ではあるのですが、私の提案するアプローチは、「課題解決型の教育方式」への転換です(――と、自分で言っておいて何ですが、これ、そんなに簡単じゃないだろうことは、私もよく分かっています)。

 「理科」「算数/数学」「技術」というような教科別の教え方ではなくて、「夏休みの自由研究(のような課題)」そのものを、直接、授業の中に投下する、という方法です。

 『江端、お前アホか? そもそも「夏休みの自由研究で子どもたちが虐待されている」と言ったのはお前だろうが』と思われるかもしれませんが、もう少し話を聞いてください。

 「夏休みの自由研究」で子どもが苦しめられている理由は、「課題を自力で見つけろ」と言われ、さらに「その解法も自力で見つけろ」とも言われているからです。比して、そのような恐ろしく困難なことを一方的に子どもに命じた学校側は、何のサポートもしていません(で、巻き込まれて、保護者も苦しむことになる、と)。

 それならば、課題も解法も学校が与えれば良いのです。そして、その課題を「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「数学(Math)」で解く方法まで、パッケージ化として、履修カリキュラムに突っ込めばいいのです。つまり、学校全面サポートを前提とした「夏休みの自由研究」型のパッケージ教育の実現です

 パッケージメニューは、文部科学省が考えてもいいですが、それこそ、「民間に丸投げ」すれば良いでしょう。教科書検定制度を、そのまま援用するだけです。バラエティのあるメニューがたくさん登場すれば、学校側も選択肢が増えてうれしいはずです(面倒が増えて、現場の教師の悲鳴が聞こえてくる様でもありますが)。

 このSTEMに、社会システムや一般常識(倫理)、語学、歴史などのArt分野もつっこめば、"STEAM"教育なるものにもなるでしょう(私は、言葉遊びに興味がないので、これ以上は言及しませんが)。

 いずれにしても、「科学」「技術」「工学」「数学」を単独で教えて、「汎用ツール」とする教育は、既に破綻していると思います ―― 例えば、『三角関数が一体何の役に立つの?』と子どもに言われた時に、既に「数学」は敗北しているのです(関連記事:「リカレント教育【前編】 三角関数不要論と個性の壊し方」)。

 STEM教育とは、リカレント教育と同様に「実学」をベースとするプラットフォームを作ること ―― 「問題解決」を目的とする人材教育 ―― でよく、もっとベタに言えば、「将来、(国家とかに頼らずに、自力で)食っていける人間の育成」で正しいです。

 そうして、子どもたちの頭の中に"STEMプラットフォーム"を作って、社会に送り出せば良いのです。大丈夫、社会課題は、上図に示したように、もう「うんざりする程あります」から、ちゃんとしたプラットフォームが作れれば、将来も喰いっぱぐれることはありません。

 しかし、『そもそも、社会課題って、"STEM"で解決できるものなの?』という疑問が生じるかもしれません。なにしろ、今回一貫して述べてきたように、我が国の国民の多くは「理系嫌い」です。

 ですが、現在私たちが直面している社会課題は、ほぼ全てがSTEMの対象になっています。例えば、私の連載の内容を調べてみれば、このことは明らかです。

 私は、国会中継での代表質問を見ていると、『なぜ、もっと数字やデータを使って、ロジカルに質問や応答ができないんだろう』とイライラしてきます。そもそも、"STEMプラットフォーム"を使わないで、社会問題を把握しようとすること事態が、稚拙で非効率だと思っています。

 加えて、私の連載コラムで取り扱ってきた社会課題(「世界を「数字」で回してみよう」)に限っていえば、STEMの大部分は、「プログラミング」を使って把握することができるのです ―― なぜなら、実際に私がプログラムで計算しまくってきたからです。

「デジタルツイン」

 このプログラムの内容は、「シミュレーション」といっても良いものなのですが、今回は「デジタルツイン」という言葉を使って説明したいと思います。

 デジタルツインとは、現実の世界から収集したさまざまなデータを、「双子」のように、コンピュータ上で再現することを言います。単なる数値データによるシミュレーションとは違って、コンピュータの仮想空間上でのオブジェクトを、現実世界にあるモノに連動させる、あるいは、意図的に連携させる点が特徴です。

 しかし、「デジタルツイン」は、それほど簡単なものではありません。

 現実世界は、物理法則が自動的に適用されていますので、対象を観測し続ければ足ります(それも結構、面倒ですが)。

 一方、仮想世界は、観測対象の構成要素や周辺環境を、下手すれば分子や原子の微細なレベルまで、コンピュータの中で計算し続けなければならないからです。

 例えば、コロナ禍になって、すっかり有名になった「飛沫の3Dシミュレーション」があります。

 「飛沫の3Dシミュレーション」は、スーパーコンピュータの「富嶽」による成果として公表されることが多いですが ―― 『私のパソコンでもできるんじゃないの』とひそかに思っていました(つまり、スパコンの宣伝戦略の一つではないかと、邪推していたということです)。

 私のパソコンでも、合衆国大統領選挙の1万回シミュレーションを14時間で導く程度のスペックはあるからです(関連記事:「沈黙する人工知能 〜なぜAIは米大統領選の予測に使われなかったのか」)。

 それで、今回、とても簡単な想定化での、「飛沫の3Dシミュレーション」の計算量を調べてみたのですが、愕然としました。

 加えて、空調による空気の流れ、重力、水蒸気圧、マスクにぶつかった/透過した飛沫粒子の軌道修正計算が入ってきますし、ここに、飛沫防止のパーティションが立っていたとしたら、そのための運動方程式を加える必要があります。さらに、人間の体温による粒子速度や空気圧力の変化も必要でしょう。

 そもそも、ここでは3つの基本式しか使っていないですが、他の文献では20以上の式を使っているモデルもありました。

 ごめんなさい。私が思い上がっていました。「飛沫の3Dシミュレーション」は、我が家のパソコンごときで太刀打ちできるような計算ではありませんでした。

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