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2022年半導体市況展望、15%超の成長が見込めるが年央に潮目が変わるかも大山聡の業界スコープ(48)(2/2 ページ)

» 2021年12月15日 11時30分 公開
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15〜20%の成長が見込まれるが、不足はいつまで?

 全体の結論として、2022年の世界半導体市場は同15〜20%程度の成長が見込める、と筆者は考えているが、現在も継続している半導体不足がいつまで続くのか、何がキッカケで状況が変わりそうなのか、ここから持論を展開させていただきたい。

世界半導体前工程製造装置の出荷動向[クリックで拡大] 出所:SEMI

 上図は、世界半導体前工程製造装置の出荷動向を分野別に示したグラフである。これをみると、同市場は2020年、2021年と大きく成長しているものの、その大半がファウン

ドリー/ロジック向け、DRAM/NANDフラッシュ向けに集中していることが分かる。

DRAM/NANDフラッシュのメモリ分野は、供給側の寡占化が進んでいる。さらに需要側もスマホ、PC、サーバ/データセンターの大手企業に寡占化が進んでいる。供給側、需要側双方の顔が見えやすく、市場の構造がシンプルな形になっている。需給バランスは変動しやすいが、過不足のサイクルは比較的読みやすく、すでに述べたように現時点では極端な過不足は発生していない。昨今の半導体不足は、メモリ市場では発生していないのである。

不足はファウンドリーで生産する製品で発生

 不足が問題視されているのは、ディスクリート、アナログ、マイコン、ロジックなどの分野である。このうちディスクリート、アナログ、マイコンの各分野においては、IDM(垂直統合型半導体メーカー)が上位を占めている。だが、上図からも分かる通り、IDMは積極的な設備投資を行っていない。Intel、Texas Instruments、Infineon Technologiesなど、自社工場の増強を行っているIDMも存在するが、多くはそれをせずに、ファウンドリーへの生産委託を増やしているのが現状である。そしてロジック市場では、IDMよりもファブレスが高いシェアを占めており、設備投資は必然的にファウンドリーに集中する。つまり、昨今の半導体不足はファウンドリーへの生産委託を行っている分野で発生しているのだ。

 これらの分野はメモリとは異なり、アプリケーションが多岐に及んでいる。言い換えれば、世界中のさまざまな機器メーカーがさまざまな半導体を必要としているため、需要の拠点は世界中に分散している、といってよいだろう。しかし製造はファウンドリーに集中する傾向があり、供給の拠点は台湾などに集中しつつある。2020年はコロナ禍のパンデミックで世界中が混乱に陥り、特に前半は何が必要で何が不要なのか、判断がしにくい状況にあった、といえよう。自動車業界でいえば、年前半は需要が大きく落ち込んだが、年後半になって急回復するなど、大きな変動を余儀なくされた。2021年の初頭から「車載半導体が足りない」という大合唱が起こったが、実は車載だけでなく、さまざまな分野で不足状態が発生していたわけである。

 WSTSの数値をみる限り、足りない、足りない、と言われている半導体製品群はどれも出荷数量や金額を順調に伸ばしている。だが、不足問題は中々解決しない。なぜだろうか。

「仮需」の実態が明らかになるのは2022年半ばか

 ここからは筆者の持論に過ぎないが、半導体メーカーから製品は確かに出荷されているものの、輸出入の通関業務に滞りが発生し、多くのコンテナが渋滞に巻き込まれている。あるいは需要拠点に半導体が出荷されても、電子機器の工場やその地域がロックダウン状態で生産活動が行えない。さらには世界中のメディアが「半導体が不足している」という一辺倒な報道を繰り返しており、他の要因で生産が滞っていても半導体不足が原因にされてしまう。これ以外にもさまざまな要因について検証する必要があるのではないだろうか。世界中に分散している半導体需要拠点に対して、コロナ禍の状況下で半導体をタイムリーに届けることが困難になっていることが原因だとすると、不足問題の解決に長い時間がかかるとは思えない。

 スマホやPCが飛ぶように売れている、という話は聞かないし、クルマに至っては各社が減産を余儀なくされている。大量に出荷されている車載半導体はいったいどこへ行ってしまったのか、疑いたくなるのは筆者だけではないだろう。

 ファウンドリー各社によれば、受注のピークは過ぎたものの、過去最大の受注残が積み上がっており、2022年末まで稼働率100%超が続く見通しだという。しかし顧客にしてみれば、100個注文しても80個しか納品されないのであれば、120個注文しておこう、という仮需を含めた注文を出しているはずである。通常なら3カ月先の需要を注文するところを、6カ月先、12カ月先まで先行発注することで、モノの確保にも走っていたはずだ。ファウンドリー側は、先行発注してくれる顧客、キャンセルなしの条件をのんでくれる顧客を優先した結果として、過去最大の受注残を抱えている、とみるべきではないだろうか。

 ファウンドリーにもその顧客にも、今後実際の需要がどれだけあるのか、確かな確証はないだろう。仮に筆者の持論が正しいとして、半導体流通の問題が徐々に解決されれば、「仮需」の実態も徐々に明らかになるはずである。少なくとも2022年中ごろには、市況の潮目が変わっていてもおかしくない。

 すでに述べたように、2022年は前年比15〜20%程度の成長が見込めるものの、2022年前半と2022年後半では状況が異なるのではないか、というのが筆者の予測である。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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