物質・材料研究機構(NIMS)は、重量エネルギー密度が500Wh/kg級のリチウム空気電池をソフトバンクと共同開発し、室温での充放電反応を実現した。開発したリチウム空気電池は、「エネルギー密度」と「サイクル数」が世界最高レベルだという。
物質・材料研究機構(NIMS)は2021年12月、重量エネルギー密度が500Wh/kg級のリチウム空気電池をソフトバンクと共同開発し、室温での充放電反応を実現したと発表した。開発したリチウム空気電池は、「エネルギー密度」と「サイクル数」が世界最高レベルだという。
NIMSは、科学技術振興機構(JST)が進めるプロジェクト「ALCA次世代蓄電池(ALCA-SPRING)」の支援を受け、高容量蓄電池の基礎研究に取り組んできた。2018年には、ソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立。携帯電話基地局やIoT(モノのインターネット)、HAPS(High Altitude Platform Station)などの用途で用いる次世代蓄電池の実用化研究を行ってきた。
リチウム空気電池は、現行のリチウムイオン電池と比べ、理論重量エネルギー密度が数倍に達するとみられ、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムなどへの応用が期待されている。ただ、セパレーターや電解液など電池反応に直接関与しない材料が、電池重量の大半を占めるなど、実用化に向けてはいくつかの課題もあった。
リチウム空気電池は、正極(酸素極)、セパレーター+電解液、負極(金属リチウム)を積層した構造になっている。放電反応を見ると、金属リチウムが負極で電解液に溶出、正極で酸素と反応することによって、過酸化リチウムが析出される。過酸化リチウムの析出量が蓄電容量となる。このことから、正極のカーボン材料としては、高い空隙率と比表面積を有する材料が適している。
充電反応はその逆で、正極の過酸化リチウムが分解して酸素を放出し、負極では金属リチウムが析出される。この時、正極と負極の双方で、高い可逆性で反応が起きるような電解液材料が求められるという。研究チームはこれまでの研究成果を基に、「多孔性カーボン電極」や「レドックスメディエーター含有電解液」などの独自材料を開発してきた。
そして今回、NIMS-SoftBank先端技術開発センターが開発した電解液注液技術や、電極積層技術など高エネルギー密度リチウム空気電池セルの作製技術と、独自開発の材料を用いて、500Wh/kg級のリチウム空気電池を試作。室温での充放電反応を実現した。
さらに研究チームは、リチウム空気電池の性能に関する世界中の文献を調査。電池のエネルギー密度を算出して、開発したリチウム空気電池と比較した。この結果、開発したリチウム空気電池は、「エネルギー密度」と「サイクル数」において、世界最高レベルの電池であることが分かった。
研究チームは今後、改良中の材料を搭載することでサイクル寿命を大幅に改善し、NIMS-SoftBank先端技術開発センターにおいて、リチウム空気電池の早期実用化を目指す。
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