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半導体業界のサプライチェーン問題に迫る「第2波」混乱を生き残る企業になるためには(1/2 ページ)

パンデミックによって、サプライチェーンの混乱がニュースで大きく取り上げられているが、問題は荷降ろしのための入港を待つ船だけに起こっているのではない。供給不足は、密接に関連した半導体と自動車分野など、さまざまな分野で、製品が出荷されるずっと前から始まっている。

» 2021年12月22日 11時30分 公開
[Gary HilsonEE Times]

 パンデミックによって、サプライチェーンの混乱がニュースで大きく取り上げられているが、問題は荷降ろしのための入港を待つ船だけに起こっているのではない。供給不足は、密接に関連した半導体と自動車分野など、さまざまな分野で、製品が出荷されるずっと前から始まっている。

パンデミックで投げかけられた、幾重にも重なる課題

 2021年12月7〜9日に開催された「SEMICON West 2021」でサプライチェーンのセキュリティに関するパネルの司会をした、The Next Solutions GroupのCEO(最高経営責任者)を務めるRaymond Kerins氏は、「問題は、単に波止場での荷下ろしや店頭での商品陳列に関することではない。最も懸念されるのは、製品を作るための原材料が入手できないことだ。製品の開発や製造ができなければ、はるかに大きな問題だからだ」と述べた。

The Next Solutions GroupのCEO、Raymond Kerins氏

 財務状態の分析を手掛けるRapidRatingsのチェアマン兼CEOを務めるJames Gellert氏は、「現在の状況が普通でなく、極端な状況であるとしても、サプライチェーン危機に陥っている企業の健全性は、その企業が将来的にどの程度業績を回復できるかの大きな決定要因になる。健全で、回復力があり、財務状態がよければ、打撃を乗り越える力がある。しかし、何らかの理由で弱体化すると、不利な条件の悪影響を受ける可能性が高くなる。パンデミックが起こったことで、企業は幾重にも重なる課題を投げかけられた」と述べている。

 サプライチェーン管理システムを手掛けるResilincの共同創業者でCEOを務めるBindiya Vakil氏は、20年前にサプライチェーン関連のキャリアをスタートして以来、サプライチェーンの混乱を数多く経験してきた。この経験から、より多くのデータを活用することでサプライチェーンの透明性を高めるためにResilincを立ち上げたという。

 Gellert氏とVakil氏の両氏は、「サプライチェーンのリスク管理を担当する役職は、比較的新しいものだ」と指摘している。Vakil氏は、『The Resilient Enterprise』の著者であるYossi Sheffi氏の講義を受けたという。同著は、9.11米国同時多発テロ直後の混乱におけるサプライチェーンの危機について述べた書籍で、サプライチェーンの大規模な混乱を引き起こしNokia、Ericssonの携帯電話市場からの撤退を招いたPhilips Semiconductorsの工場火災の事例を取り上げている。「このたった1つの火災が売上高に3億米ドルの影響を与え、市場の勢力図を一変させた」(同著)

Resilincの共同創業者でCEOのBindiya Vakil氏

 Vakil氏は、「Resilincは基本的に、サプライチェーンにとっての『LinkedIn』として機能する。ただダーツを投げて何かが突き刺さるのを待つだけでは、リスクを低減することはできないと認識している」と語る。サプライチェーンをマッピングすることにより、どの設備が関与していて、その混乱状態によってどのような影響があるのかということの他、その製品や材料、労働力を提供する能力に影響を及ぼしている原因がハリケーンなのか地震なのか、それとも他の問題なのかということを、明確かつ詳細に把握できるようにする必要がある。Resilincは10年以上にわたり、50万社を超えるサプライヤーのマッピングを進めてきた。同氏は、「決して簡単なことではないが、不可能なわけではない」と述べている。

サプライヤー内のコンプライアンスリスクに注目する

 Gellert氏は、「サプライチェーンにおけるリスク管理が進化するに伴い、可視性が高まってきた。企業は、インフラ/人材開発を進めることにより、サイロ化された手法ではなく協調的な方法でサプライヤーのリスクを注視していきたい考えだ」と述べる。

RapidRatingsのチェアマン兼CEOを務めるJames Gellert氏

 「多くの企業が今後、配送や品質、価格といった従来の課題に加え、情報セキュリティ/サイバーセキュリティリスクなど、サプライヤー内のコンプライアンスリスクに注目するようになるだろう。現在では幅広い領域において、リスク管理に関する情報を提供する必要がある。経営状態が悪化しつつある企業は、どこかで手を抜こうとするだろう。それは例えば、配送や安全衛生、研究開発などかもしれない。このため、幅広いリスクについて理解し、それが企業にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを把握できるよう、さまざまなリスクを組み合わせる必要がある」(Gellert氏)

 Vakil氏は、「企業の中には、サプライヤーが、例えば破産状態にあるというような困難な状況を明らかにしたとしても、何か行動するにはあまりにも遅すぎるということを理解していない場合もある。積極的にリスクを低減しようとするのではなく、ただ反応することしかできないのだ。企業が突然部品を入手できなくなってしまった場合、周りが何も見えなくなって売上高がゼロになるため、経営状態がどうかは大した問題ではなくなる。最大限に高めるべき利益も何もないのだ」と述べる。

リスク排除ではなくリスク管理

 「われわれの調査によれば、たとえパンデミックという困難な問題が発生しなかったとしても、ハイテク/自動車分野では工場火災が年間300〜350件発生している。1日当たり1件、工場火災が発生しているのだ。サプライチェーンの調達担当部門にとっては、最初に発生した工場火災から2カ月後には、サプライヤーとの契約が果たされなくなり、部品を探すことになる」(Vakil氏)

 Gellert氏は、「目標は、リスク排除ではなくリスク管理だ。ほとんどの企業が、サプライヤーとの協業関係を断ちたくはない。継続的に協力していきたい考えだ。サプライヤーを見つけ出して、入念な調査を行い、そして取引を開始するというのは、非常にコストがかかる。RapidRatingsの大半のクライアントは、何らかの弱点を持っているサプライヤーに対してただ距離を置くのではなく、ある程度のリスクを抱えている可能性があるサプライヤーと関わっていくためのより良い方法を模索しているのだ」と述べる。

 これは、どの分野にも当てはまるのではないだろうか。しかし半導体不足は、さまざまな業界や消費者製品に影響を及ぼしている。このところ、ディーラーにおける自動車不足の問題が大きく報じられている背景には、「現在のクルマには大量のエレクトロニクスが搭載されている」というごくシンプルな理由がある。

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