下図は、ソフトバンクによって買収された後のArmの売上高を示している。最初の売上高は主に、飽和状態となったスマートフォン/モバイル市場によるものだ。2021年度の売上高については、孫氏が「Armの第2の成長期」と呼んでいるように、急成長が予測されている。同氏は、「このような黄金期に到達するということは、IPOには最適なタイミングだといえる」と主張する。
ArmのCFO(最高財務責任者)であるInder Singh氏は、「Armは、スマートフォン/モバイル分野において主導的な地位を確立しており、売上高は年間成長率29%で伸びている。これは、5G(第5世代移動通信)への移行や、新アーキテクチャ『Armv9』への移行が進んだこと、AI(人工知能)導入の加速などが組み合わさった成果だといえる。データセンター/サーバ分野は前年比65%増、自動車市場は同139%増の成長を遂げている」と述べる。
Singh氏は、「われわれは、シェア拡大や、新市場への参入、新製品の投入などによって勢いに乗っていることから、2021年度の売上高が前年比26%増で伸びるとの予測に自信を持っている。さらに2022年度には、売上高と利益率が過去最高を記録する見込みだ」と述べる。
また同氏は、「Armは、ソフトバンクの傘下にあった5年間も独立企業として扱われていた。実際、利益率も以前と同程度に戻りつつある。上場企業になることで、資本にアクセスすることができるようになる。そして、必要であればより多くの自由を手に入れることができる」と付け加えた。
Armの新CEO(最高経営責任者)であるRene Haas氏は、「ArmはITインフラや自動車市場で顧客を獲得している。自動車分野ではArmがデファクトスタンダードになりつつあり、40個ものArmベースのチップを使用しているモデルもある。この数は今後ますます増えていくだろう。こうしたアプリケーション用の共通ソフトウェアと、非常に電力効率の高いアーキテクチャは、バッテリーに制約のある電気自動車(EV)のような分野でチャンスを生むだろう」と述べている。
ただ、Arm/NVIDIAが共同で回答した規制当局への提出文書では、独立したArmは、NVIDIAのリソースがなければ、データセンター分野で既存のx86ベンダーと競争に苦労するだろうと論じていた。また文書では、「Armは現在のところ、データセンター市場の限られた参入枠をなんとか確保できているにすぎない。主にAmazonにライセンス供与しているが、Amazonは自社用にカスタムチップを製造している。データセンター向けの商用Arm CPUを提供しているのは、スタートアップのAmpere Computingのみだ」とも述べていた。
Haas氏は今回、Armが市場での人気を集めていると述べ、第3世代が登場したAmazon Web Serviceのデータセンター向けCPU「Graviton」に言及した。また、「AWS EC2(Amazon Elastic Compute Cloud)の上位50社のうち48社がGraviton2を使っている」とも述べた。
Armは、Gravitonがきっかけとなり、他のハイパースケーラーでもSoC(System on Chip)設計でArmコアの採用が進むことを期待している。おそらくAlibabaが2021年10月に発表した、Armv9に対応した128コアのサーバ用チップ「Yitian 710」や、Huaweiの「Kunpeng」、NVIDIAの「Grace」などと同様の“ドミノ効果”を引き起こすのではないだろうか。
Armは中国の合弁会社の状況が、予定しているIPOを複雑化させる可能性があることも認めている。Armは2020年以降、過半数の支配権を求めているが、合弁会社を巡る争いは現在も続いている。とはいえ、Haas氏は、「ハイパースケール、クラウド、インフラ、自動車に関するArmの戦略は、(中国で)実を結んでいる。中国の半導体市場は大きく成長しており(中略)そこで抱えている経営問題とは別に、ビジネスそのものは傑出している」と語った。
Singh氏は、「IPOに向けて、Arm Chinaの帳簿を監査する権利を保持することが、Armにとって重要になる」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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