広島大学は愛媛大学と共同研究を行い、GaAsBi(ヒ化ガリウムビスマス)を生成する工程で、使用する半導体基板の温度を180℃や250℃という低温に設定するだけで、「非晶質層」と「単結晶層」を作り分けることに成功した。
広島大学は2022年3月、愛媛大学と共同研究を行い、GaAsBi(ヒ化ガリウムビスマス)を生成する工程で、使用する半導体基板の温度を180℃や250℃という低温に設定するだけで、「非晶質層」と「単結晶層」を作り分けることに成功したと発表した。テラヘルツ波発生検出素子用の「光伝導アンテナ」など、結晶内に存在する結晶欠陥を生かした半導体デバイスの開発に応用していく。
GaAsBiやInAsBi(ヒ化インジウムビスマス)といったBi系III-V族半導体は、「禁制帯幅が急激に小さくなる」「価電子帯上端が高エネルギーシフトする」「禁制帯幅の温度依存性が低減する」といった特異な物性を発現する。また、Bi系III-V族半導体の価電子帯頂上とスプリットオフバンド間のエネルギーが大きくなることも知られている。
一方で、Bi原子は「生成温度が400℃以下でないとGaAsなどの母体結晶に取り込まれない」ことや、「生成温度を下げるほどBi組成が増加して、禁制帯が母体結晶のものより小さくなる」ことが分かっている。つまり、Bi系III-V族半導体は低温で生成する必要があるため、高温成長に比べ結晶内に結晶欠陥が形成されやすいという課題もあった。
広島大学はこれまで、結晶内に存在する結晶欠陥を逆に活用したBi系III-V族半導体の応用先として、テラヘルツ波発生検出素子用の光伝導アンテナに着目。分子線エピタキシー(MBE)法を用い、意図的にGaAsBiの低温生成に取り組んできた。
実験では、GaAs基板の温度を180℃に設定し、照射する分子線のうちGaとAsの分子線量比率を原子数比に換算した。その原子数比(NAs/NGa)が1を下回るとBiが試料表面に偏析をするため、均質なGaAsBiが成長できず、試料の表面にGa液滴が形成された。
これに対し、NAs/NGaが1より大きくなると、GaAs基板の温度が180℃の場合は非晶質GaAsBiが堆積。基板の温度が250℃になると、単結晶GaAsBiが成長することを確認した。低温成長であっても、従来のGaAs系半導体におけるMBE成長と同様に、成長表面のGaとAsの原子数を1:1に保ちつつ、その範囲内でBi原子がGaAs結晶内に均一に取り込まれるMBE成長条件を選択することが重要だという。
また、NAs/NGaを適切に設定すれば、基板温度を変えることで「非晶質層」と「単結晶層」の作り分けが可能になることも示した。試料のX線回折カーブの干渉フリンジによって、250℃という低温成長でも、原子配列の乱れが極めて少ない、単結晶GaAsBiが得られることを確認した。
今回は、広島大学大学院先進理工系科学研究科の富永依里子准教授と、広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所技術職員の西山文隆氏および、愛媛大学大学院理工学研究科の石川史太郎准教授らによる共同研究の成果である。
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