広島大学の研究グループは、もみ殻中のガラス(SiO2:シリカ)からオレンジ色に発光するシリコン量子ドット(SiQD)を合成し、これを用いてSiQD LEDを開発した。
広島大学の研究グループは2022年2月、もみ殻中のガラス(SiO2:シリカ)からオレンジ色に発光するシリコン量子ドット(SiQD)を合成し、これを用いてSiQD LEDの開発に成功したと発表した。
イネ科の植物は多くのSiO2を含んでいる、特に、世界で年間1億トンも排出されるもみ殻は、重さの20%がSiO2といわれている。2013年には、このSiO2がリチウムイオン電池の有効な材料になることを、スタンフォード大学の研究者が報告した。しかし、もみ殻を原料としたLEDの製造はこれまで報告されていないという。
ディスプレイ市場では、タブレット端末や大型TV向けに量子ドットディスプレイが注目されている。量子ドットは色彩が鮮やかで、発色がきれいなためである。ところが、市販されている現行の量子ドットディスプレイには、重金属の量子ドットが含まれているため、その毒性が懸念されている。これに対し、重金属を含まないシリコン量子ドットは、発光効率が低いなどの課題があった。
研究グループはこれまで、「三原色発光するSiQD」や「白色発光するSiQD」「青色SiQD LED」「コストを380分の1に抑えるSiQDの製造法」などを開発してきた。2022年1月には、「発光効率が80%という世界トップレベルのSiQD合成と、それを用いた赤色SiQD LEDの開発」を発表した。
今回は、これまでの研究成果をベースに、もみ殻を原料としてSiQDを合成した。オレンジ色に発光するSiQDの発光効率は21%と高い。このSiQDを用いてLEDを開発した。
SiQD LEDの製造手順はこうだ。まず、もみ殻を酸処理して、無機物の不純物を除去する。それを電気炉で焼き、シリカを取り出す。得られたシリカをマグネシウムの粉末と混ぜて加熱、酸化還元反応をさせて多孔質性のシリコン粉末を得る。この時、シリカおよび多孔質シリコンの収率はそれぞれ100%および86%であった。
次に、多孔質シリコンを酸処理してナノサイズまで微小化させる。これに紫外線を照射したところ、オレンジ色に発光した。表面の水素を炭化水素基(デシル基)に置換して、分散性や耐久性、発光効率を高めたのがSiQDである。SiQD LEDは透明電極付きガラスに、電荷が流れる多層膜を形成している。製造は真空フリーで低温の溶液プロセスで行えるなど簡便である。
作製したLEDの大きさは2cm2で、発光面の面積は4mm2である。点発光の一般的なLED(砲弾型)に比べて、約40倍の発光面積に相当する。今回の研究では、「発光メカニズムの解明」や「表面構造の特定」「発光色の可変性」「結晶性評価」および、「LEDの性能評価」なども行ったという。
今回の研究成果は、広島大学大学院生の寺田詩歩氏(理学研究科博士課程前期修了)、植田朋乃可氏(先進理工系科学研究科博士課程前期)および、自然科学研究支援開発センター(研究開発部門)の齋藤健一教授らによるものである。
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