今回は、これまでほとんど知られていなかった、マスクROMのルーツが判明したので、その内容をお届けする。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げるようになっていた。現在は、FMSの公式サイトからPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2020年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述していた。とても参考になるので、その概略をシリーズで説明する。なお原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。
本シリーズの前回は、1970年代の主な出来事をご報告した。具体的には、電気的にデータの書き込みが可能な不揮発性メモリ「EPROM(Electrically Programmable Read Only Memory)」の改良が進んだこと、電気的にデータの書き込みと消去が可能な不揮発性メモリ「EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)」が登場したことを述べた。
一方、「Flash Memory Timeline」には一見すると不可解な記述が見られた。1975年に日立製作所が「NAND type MROM」の特許を申請したという記述と、1980年に富士通が日立の特許を改良したMROM技術の特許を申請した(原文は「Fujitsu files patent with improvements to Hitachi’s 1975 MROM」)という記述である。MROMとはマスクROM(Mask Read Only Memory)の略称らしいが、確信は持てなかった。
なおマスクROMの「マスク」は、ウエハー処理工程に使われるフォトマスクを指す。フォトマスクによってメモリセルアレイに所望のデータを書き込む。ユーザーによるデータの書き換えは不可能である。
筆者が調査を進めたところ、1975年出願の日立特許と1980年出願の富士通特許が判明した(上記の表中に記述)。MROMとはマスクROMであること、ROMのセルアレイを構成するMIS FET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)の配置をNAND型とすることで集積密度を高める工夫が特許の請求範囲であることなどの情報が明らかになった。
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