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EPROMの進化とEEPROMの誕生(1970年代)福田昭のストレージ通信(218) フラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表(2)

フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット」で公開されるフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表。この歴史年表を過去から順に紹介していく。今回は、1970年代を解説する。

» 2022年07月08日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

強誘電体、浮遊ゲート、電荷捕獲、相変化が1970年までに登場

  フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げるようになっていた。現在は、FMSの公式サイトからPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。

 この年表は1952〜2020年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。とても参考になるので、その概略をシリーズで紹介したい。なお原文はすべて英文なのでこれを和文に翻訳するとともに、参考になりそうな情報を追加した。また原文のすべての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。

 前回は本シリーズの初回であり、1950年代〜1960年代の主な出来事を報告した。不揮発性メモリの記憶原理では、強誘電体、浮遊ゲート、電荷捕獲、相変化が登場した。1960年代の最終年である1970年には、インテル(Intel)が浮遊ゲート方式のEPROM(Electrically Programmable Read Only Memory)を開発した。

東芝がEPROMを大幅に改良し、その後に1トランジスタセルを実現

 インテルが開発したEPROMは、1層の多結晶Siゲート(浮遊ゲート)にアバランシェ効果によって電子を注入して蓄積することでデータを記憶する。同社は「FAMOS(Floating gate Avalanche injection Metal Oxide Semiconductor)」構造と呼称していた。FAMOS構造のMOS FETは記憶用トランジスタであり、セル選択スイッチとなる通常のMOS FETと組み合わせて1個のメモリセルを構成していた。2個のトランジスタで1個のメモリセルを形成するので「2トランジスタセル(2Tセル)」とも呼ぶ。なおデータの消去には紫外線を使うので、「紫外線消去型EPROM(UV-EPROM)」と呼ぶことが多い。さらには「EPROM」の「E」を「Erasable」の略として表記するようになった。

 FAMOS構造は、初期不良をテストによって検出しづらいという根本的な問題を抱えていた。この問題を解決したのが、東芝の舛岡富士雄らが1972年に開発した「SAMOS(Stacked gate Avalanche injection Metal Oxide Semiconductor)」構造である。SAMOSは記憶用トランジスタを2層ゲート構造とした。下層ゲートが浮遊ゲート、上層ゲートが制御ゲートである。制御ゲートに適切な電圧を印加することにより、初期不良をテストによって取り除けるようになった。このため、信頼性が大幅に向上した。またSAMOS構造は書き込み時間(プログラム時間)がFAMOS構造に比べて大幅に短いという特徴も備えていた。

 SAMOS構造でも、当初のメモリセルは1個のセル選択用MOS FETと1個の記憶用トランジスタ(SAMOS構造)で構成されており、2トランジスタセルのままだった。これは当時のMOS FETがpチャンネルMOSだったためだ。pチャンネルMOSは浮遊ゲートに電子が蓄積されると、常にオン状態(あるいはしきい電圧が非常に低い状態)となる。したがって記憶用トランジスタだけでセルアレイを組むと、ワード線電圧がゼロでも、ビット線で選択したセルの中で浮遊ゲートに電子を蓄積したトランジスタのすべてに電流が流れてしまう。このような恐れがある。

 その後、nチャンネルMOSが主流になると、事情は一変する。浮遊ゲートに電子を蓄積してもnチャンネルMOSはオフ状態が強まるだけで、オン状態にはならない。SAMOS構造では制御ゲートから浮遊ゲートの電圧を制御できるので、1個の記憶用トランジスタがセル選択用トランジスタを兼ねた、1トランジスタセルを実用化できた。この結果、EPROMの集積密度は2倍近くに向上した。

 このSAMOS構造は浮遊ゲート方式の不揮発性メモリにとって基本的な構造である。後のNAND型フラッシュメモリでもSAMOS構造が使われた。

フラッシュメモリと不揮発性メモリの主な出来事(1972〜1980年) (クリックで拡大)

電気的にデータを書き換えられるEEPROM

 1974年には、ゼネラルインストルメント(General Instrument)が「EAROM(Electrically Alterable Read Only Memory)」と呼ぶ、データを電気的に書き換えられる不揮発性メモリを製品化した。世界初の電気的にデータを書き換え可能な不揮発性メモリ(EEPROM:Electrically Erasable and Programmable Read-Only Memory)である。

 EAROMは、電荷捕獲(チャージトラップ)方式を採用した。具体的には、MNOS(Metal Nitride Oxide Semiconductor)構造の窒化膜に電荷を注入し、捕獲する。なお詳細は不明である。

 1977年には、ヒューズエアクラフト(Hughes Aircraft)のEli Harariが浮遊ゲート方式のEEPROMを考案する。記憶用トランジスタは浮遊ゲートと制御ゲートの2層構造で、浮遊ゲートとシリコン基板の間にある酸化膜を薄くし、ファウラーノルドハイム(FN:Fowler-Nordheim)トンネリング(FNトンネリング)によって電荷の注入と引き抜きを実行する。FNトンネリングは比較的厚い酸化膜でも高い電界を加えることで電子のトンネリングを実現した、当時としては非常に画期的なアイデアだった。後のNAND型フラッシュメモリにも、FNトンネリングがデータの書き込みと消去に採用されている。

 1978年にはインテルのGeorge Perlegosが、浮遊ゲートと拡散層(ドレイン)が重なっている部分の一部だけ酸化膜を薄くし、局所的にFNトンネリングを発生させるEEPROMを開発した。この構造は「FLOTOX(FLOating Thin OXide)」(フロトックス)と呼ばれる。「FLOTOX」はMNOSと並んでEEPROMを代表する構造になる。

(次回に続く)

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