今回は、1985年から1988年の主な出来事を報告する。NORフラッシュに続き、NANDフラッシュが表舞台に登場する。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げるようになっていた。現在は、FMSの公式サイトからPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2020年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述していた。とても参考になるので、その概略をシリーズで説明する。なお原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。
前回は、1981年から1985年の主な出来事を解説した。電気的にデータを書き換え可能な不揮発性メモリ、具体的にはEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read-Only Memory EEPROM)の開発が活発化し、その低コスト品であるフラッシュEEPROMが登場した年代だ。今回は、1985年から1988年の主な出来事をご報告する。
前回では、フラッシュEEPROM(以降は「フラッシュメモリ」と表記)の発明企業が少なくとも2つあると述べた。1社は日本の東芝、もう1社は米国のエクセルマイクロエレクトロニクス(Exel Microelectronics)である。両社が開発したメモリセルの構造はかなり違う。
東芝が1984年12月に国際学会IEDMで発表したフラッシュメモリのメモリセルは「トリプルポリシリコン(3層多結晶シリコン)」タイプとも呼ばれる。1個のトランジスタ(MOSFET)が浮遊ゲート(電荷の蓄積用)と制御ゲート(浮遊ゲートの電位制御用)のほか、消去ゲートを備える。消去ゲートがあるため、通常のEPROMとは異なる3層の多結晶シリコンプロセスを必要とする。また制御ゲートの一部は基板(チャンネル)と重なっており、選択トランジスタとして働く。
エクセルマイクロエレクトロニクスが1984年11月に米国特許(US4698787)を出願したメモリセルは、EPROMと同様の2層多結晶シリコンプロセスで作る。浮遊ゲートの一部は拡散層と重なっており、消去動作では浮遊ゲートから拡散層に電荷を引き抜く。
データの書き換え原理は、両社とも同じである。書き込み(浮遊ゲートへの電子注入)にはホットエレクトロン効果、消去(浮遊ゲートからの電子引き抜き)にはファウラーノルドハイム(FN:Fowler-Nordheim)トンネリング(FNトンネリング)を使う。セルアレイはいずれもNOR型である。
量産化されたNOR型フラッシュメモリ(以降は「NORフラッシュ」と表記)に近い構造は、エクセルマイクロエレクトロニクスの発明したセルだ。しかし当時の酸化膜形成技術では、極めて薄い酸化膜をチャンネル領域全体に均一に作ることは容易ではない。このため、同社が開発したセル構造の大容量メモリは、製造歩留まりを高められないとの懸念が強かった。
東芝が開発したセル構造は、消去ゲートを設けることで製造歩留まりの懸念を減らしている。しかしトリプルポリシリコンのプロセスが工程数(マスク数)を増やす、メモリセル面積が大きめになるといった弱点を抱えていた。
現実には、エクセルマイクロエレクトロニクスと類似の2層多結晶シリコン浮遊ゲート構造のセルトランジスタで、インテル(Intel)が「ETOX(EPROM Tunnel OXide)」と呼ぶ薄いゲート酸化膜の量産化に成功したことで、インテルが技術的にも商業的にもNORフラッシュの主役となっていく。
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