産業技術総合研究所(産総研)と甲南大学は、ワイドギャップCIS系材料を用いた太陽電池や光電気化学セルの性能を向上させることができる「界面改質手法」を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)省エネルギー研究部門の石塚尚吾首席研究員と甲南大学の池田茂教授は2022年8月、ワイドギャップCIS系材料を用いた太陽電池や光電気化学セルの性能を向上させることができる「界面改質手法」を開発したと発表した。
ワイドギャップCIS系材料を用いた太陽電池は、欠陥や物性の制御、高性能化が難しく、性能の改善が大きな課題となっていた。また、光電気化学セルによる水分解水素生成にも、ワイドギャップCIS系材料は有望視されているが、光−水素変換効率を示す「HC-STH効率」は、これまで1%程度にとどまるなど、実用レベルには達していなかったという。これに対し研究グループは、CuGaSe2製膜技術を改善し、水分解水素生成セルで6%を超えるHC-STH効率を達成していた。
研究グループは今回、銅欠乏層形成やアルカリ金属添加などを適切に制御することで、CuGaSe2薄膜の表面部分における界面改質を提案し、p-n接合界面付近のキャリア再結合を抑制する手法を開発した。CIS系太陽電池では、「アルカリ金属効果」として認知されているものだという。
特に今回は、ワイドギャップCIS系材料で十分な「アルカリ金属効果」を得るため、従来のPDT(ポストデポジショントリートメント)法とは異なる手法を用いた。具体的には、CuGaSe2薄膜製造プロセスにおいて、製膜が終了する直前に「Ga」や「Se」と同時に、「アルカリ金属ハロゲン化物」を供給する。これによって、開放電圧と曲線因子のパラメーターを改善した。特に、ワイドギャップCIS系太陽電池の曲線因子は、74.6%まで向上した。これまでの報告では最高でも70%程度であったという。
また、Cu欠乏層を制御することで、CuGaSe2太陽電池の開放電圧を改善できることも確認した。高い開放電圧(0.960V)と曲線因子(72.4%)を両立させながら、第三者機関測定値としては世界最高となる、11.05%の変換効率を達成したという。
さらに、製膜が終了する直前にアルカリ金属ハロゲン化物を添加したCuGaSe2薄膜を、光電気化学セルの光電極に用いて、その特性を評価した。ほぼ中性(pH 6.8)の水溶液を用いて測定した水分解水素生成の性能は、8%を超える極めて高いHC-STH効率となった。また、Cu欠乏層の厚みを制御して界面改質を行った光電極を用いると、0.9Vを超える大きなオンセットポテンシャルが得られた。
研究グループは今後、ワイドギャップCIS系薄膜のバルク特性改善などにより、太陽電池と光電気化学セルのそれぞれにおいて、さらなる性能向上を目指す。
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