既出の記事で、日本全体の前工程装置のシェアが2013年頃から急低下していることを指摘した。本稿ではその現象をより詳細に分析し、シェアが低下している根本的な原因を探る。
日本の前工程装置には特徴的にシェアが高い分野があるということを、昨年2021年12月14日に本コラムで報じた(『半導体製造装置と材料、日本のシェアはなぜ高い? 〜「日本人特有の気質」が生み出す競争力』)。
ところが、図1に示したように、日本全体の前工程装置のシェアが2013年頃から急低下していることが判明した(『実はシェアが急低下、危機の入り口に立つ日本の前工程装置産業』/2022年7月11日)。
この記事は、各方面に波紋を投げかけたようである。というのは、日経クロステックが7月20日に、『日本の半導体製造装置、世界シェア低下に次世代技術で立ち向かえ』という記事を掲載(参考)。また、これと全く同じ内容の記事が7月28日に、『日本の半導体製造装置、シェア巻き返しに次世代技術』というタイトルで日経新聞電子版に掲載されたからだ(参考)。
しかしなぜ、日本の前工程装置のシェアが低下するのだろうか?
筆者は自身の記事で、2011年から2021年の10年間で、マスク検査装置を除く全ての前工程装置のシェアが低下していることを指摘した(図2)。そしてこれが、日本の前工程装置のシェアが低下することに直結していると論じた。
しかし、これだけでは十分な分析とは言えないと感じている。そこで本稿では、再度、日本の前工程装置のシェア低下の問題を取り上げる。その分析の結果、欧米企業は市場規模の大きな装置分野に集中することにより高いシェアを上げていること、2011年以降の装置の売上高の成長率で欧米韓の企業が日本企業を上回っていることが明らかになった。
日本企業の成長率が欧米韓の企業に追い付き、追い越さなければ、この問題は解決しない。やはり、事態は深刻であると言える。
図3に、2021年のおける各種の前工程装置の企業別シェア、欧米日のシェア、市場規模を示す。日本には特徴的にシェアが高い装置分野があるが、その市場規模は大きくない。具体的に言うと、シェア90.6%のコータ・デベロッパは33億米ドル、シェア94.7%の熱処理装置は38億米ドル、シェア61.4%の枚葉式洗浄装置は41億米ドル、シェア90.7%のバッチ式洗浄装置は9億米ドル、シェア68.7%の測長SEMは8億米ドルとなっている。日本が独占的なシェアを占めている装置分野で、市場規模が50億米ドルを超えるものはない。
一方、100億米ドルを超える市場規模の装置分野では、欧米の装置メーカーがシェアを独占している。具体的には、164億米ドルの露光装置でASMLが95%を独占し、189億米ドルのドライエッチング装置ではLam Research(Lam)とApplied Materials(AMAT)が合計で64.8%を占め、約100億米ドルのCVD装置ではAMATとLamが合計で66.2%を占め、104億米ドルの外観検査装置ではKLAとAMATが合計で73%を独占している。
その他、市場規模が100億米ドルには満たない分野でも、44億米ドルのスパッタ装置をAMATが86%を独占し、28億米ドルのCMP装置をAMATが68%を占め、35億米ドルのパタン検査装置をKLAとAMATが合計で87.5%を独占している。
100億米ドルを超える4種類の装置をはじめとして、各種の装置のシェアを独占している欧米企業は、ASML、AMAT、Lam、KLAの4社である。要するに、欧米の4社の装置メーカーが、市場規模の高い分野の装置のシェアをがっちり確保している。そこには、欧米企業ならではの戦略性と集中力がうかがえる。
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