東京大学は、ブリティッシュコロンビア大学などからなる国際共同研究グループと共同で、反強磁性体「Mn▽▽3▽▽Sn」の磁気状態を、結晶のひずみによって制御することに成功した。開発した制御技術を用いることで、MRAMのさらなる高速化と高密度化を実現することが可能になるという。
東京大学の研究グループは2022年8月、ブリティッシュコロンビア大学などからなる国際共同研究グループと共同で、反強磁性体「Mn3Sn」の磁気状態を、結晶のひずみによって制御することに成功したと発表した。開発した制御技術を用いることで、MRAMのさらなる高速化と高密度化を実現することが可能になるという。
反強磁性体は、スピンの応答速度が強磁性体に比べ100〜1000倍も速く、磁化も極めて小さいため素子化した時に漏れ磁場の影響を受けない、などの特性がある。一方で、反強磁性体への情報の書き込み(信号の検出や制御)が難しい、という課題もあった。
研究グループはMn3Snに着目し、これまでに「異常ホール効果」や「異常ネルンスト効果」「磁気光学カー効果」といった読み出し信号を、室温で検出できることを実証してきた。それは、磁極に類似した「拡張磁気八極子偏極」をMn3Snが持っているからだという。
読み出し信号を制御する方法としてこれまでは、磁場や電流が用いられていた。これに対し研究グループは、「ひずみ」に着目した。ひずみによる異常ホール信号を測定するために、「抵抗測定用圧電ひずみ測定ステージ」を新たに開発した。この装置は、Mn3Sn単結晶試料に対し、「引張」と「圧縮」の方向に、一軸性のひずみを高い精度で、広範囲に加えることができる。
この結果、室温においてMn3Snが「ピエゾ磁気効果」を示すことが分かった。そして、0.1%程度の極めて小さいひずみでありながら、異常ホール効果によって得られるホール信号を制御することに成功した。ホール信号の変化は、その大きさだけでなく符号の反転も観測できたという。このことから、ノンコリニア(非共線)反強磁性体のMn3Snでは、ひずみによって信号を高い効率で制御できることが分かった。
研究グループは、開発したひずみによる異常ホール効果の制御手法について、「これまで観測することができなかったワイル半金属状態に由来する、新しい現象の開拓につながる」とみている。
今回の研究成果は、東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授、ムハンマド イクラス特任研究員、肥後友也特任准教授の研究グループと、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のサヤック ダスグプタ特任研究員、コーネル大学(米国)のブラッド ラムシャウ助教、フローリアン セイス大学院生の研究グループ、中央大学の橘高俊一郎准教授、ジョンズホプキンス大学(米国)のオレグ チェルニショフ教授および、バーミンガム大学(英国)のクリフォード ヒックス グループリーダーらによるものである。
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