東京大学生産技術研究所教授の藤岡洋氏らは2022年7月、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)トランジスタを安価に製造できる手法を確立するとともに、同トランジスタを試作し実用性があること確認したと発表した。
東京大学生産技術研究所教授の藤岡洋氏らは2022年7月、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)トランジスタを安価に製造できる手法を確立するとともに、同トランジスタを試作し実用性があること確認したと発表した。
AlGaNは、パワー半導体/高周波半導体用材料として普及が始まっているGaN(窒化ガリウム)よりも絶縁破壊耐性が高く、次世代半導体材料としてパワー半導体用途での応用が期待されている。ただ、AlGaN半導体中の電子はエネルギー状態が高く、外部から電子を注入することが難しいため、低抵抗の電極を形成できず、これまでは実用性のある良好な特性を持つトランジスタが作成できていなかった。
加えて、AlGaNやGaNといった窒化物半導体の結晶成長には、1000℃程度の高温を必要とし、製造コストが高くなる有機金属気相成長(MOCVD)法と呼ばれる結晶成長手法を用いられる。そのため、窒化物半導体デバイスの価格が高くなり、普及を妨げる要因の1つになっている。
このように次世代パワー半導体/高周波半導体材料として期待されるAlGaNだが、実用化、普及拡大に向けて複数の課題を抱えてきた。
これに対し藤岡洋教授らは、今回、MOCVD法のような高温処理が不要で、各種半導体素子の薄膜形成などの用途で広く利用されているスパッタリング法で、AlGaN、GaNといった窒化半導体結晶を合成する手法を開発。さらに、高いエネルギー状態の電子が存在する「縮退GaN結晶」と呼ぶ新材料を合成することに成功。縮退GaN結晶をトランジスタの電極(ソースおよび、ドレイン)に用いて、AlN/AlGaNヘテロ接合高電子移動度トランジスタ(HEMT)を試作。その結果、抵抗の低い高性能のAlGaNトランジスタを実現できることを実証したとする。藤岡氏は「初めて動作するAlGaNトランジスタを実現した。(パワー半導体デバイス市場に大きな変化を及ぼす)ゲームチェンジャーになり得る技術」と開発成果を評している。
これまで難しかった電子注入を容易にした縮退GaN結晶は、GaN結晶にシリコン原子を1×1020cm-3以上の高濃度で導入したもの。GaNよりもエネルギー状態が0.63eV高い電子を持つ縮退GaN結晶を、スパッタリング法を用いて作成。試作したAlN/AlGaN-HEMTでは「小サイズで1600℃を超える高い耐圧を実現した」(藤岡氏)という。
藤岡氏は「AlGaNトランジスタは、(GaNトランジスタでは不可能だった)性能限界を延ばしながら、高周波動作を得意にするGaNトランジスタを置き換えていくことになるだろう」とする。さらにスパッタリング法により窒化物半導体の結晶成長コストは「10分の1程度になるため、窒化物半導体で劇的なコスト低下が起こる。そのため、コストの安いシリコンMOSFETの領域にも食い込んでいける」とする。
今回、開発した技術によるAlN/AlGaNーHEMTの実用化時期について「既存のスパッタリング装置を改造することで製造できる。実用化は早く、産業に応用できる」との見通しを語った。
藤岡氏は今後の研究の方向性について「アルミニウム(Al)の組成を大きくし、AlN(窒化アルミニウム)に到達したい」とする。今回、試作したHEMTのAlGaNの組成は、Al0.5Ga0.5N。「Alの比率が60%、70%、80%と高めると性能が良くなることが予測され、耐圧が上がっていく。より性能の高い素子を作っていく」(藤岡氏)
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