東京工業大学と東京大学の研究グループは、全固体リチウム電池において硫化物固体電解質と電極材料の界面に化学反応層が形成されると、極めて高い界面抵抗が生じることを解明した。この界面に緩衝層を導入すれば、界面抵抗は2800分の1に低減され、電池は安定動作することを実証した。
東京工業大学と東京大学の研究グループは2022年7月、全固体リチウム電池において硫化物固体電解質と電極材料の界面に化学反応層が形成されると、極めて高い界面抵抗が生じることを解明したと発表した。この界面に緩衝層を導入すれば、界面抵抗は2800分の1に低減され、電池は安定動作することを実証した。
全固体リチウム電池は、高い安全性と高速充電が可能なことから、電気自動車や大型蓄電池への応用が期待されている。しかし、硫化物固体電解質と電極材料の間に高い界面抵抗が生じ、大きな電流を流すことが極めて難しいなど、課題もあったという。
界面抵抗の起源としては、「空間電荷層」や「化学反応層」といったメカニズムが考えられている。しかし、粉体型の全固体電池では構造が複雑であり、要因を解明するための定量的な研究は難しかったという。そこで研究グループは、界面抵抗が増大するメカニズムを解明し、界面抵抗を低減する手法を見いだすことにした。
実験では、硫化物固体電解質にLi3PS4薄膜、電極にLiCoO2(001)エピタキシャル薄膜を用いて、薄膜型全固体電池を作製したが、正常な動作はしなかった。ところが、Li3PS4とLiCoO2の界面に、緩衝層として厚み約10nmのLi3PO4固体電解質を導入した。そうすると電池が動作した。緩衝層を導入したことで、Li3PS4とLiCoO2の界面抵抗は、導入前に比べ2800分の1に低減することが分かった。
研究グループは、透過型電子顕微鏡による界面構造の観察や、エネルギー分散型X線分光法と電子エネルギー損失分光法を用い、界面周辺の構成元素や電子状態の分析などを行った。
Li3PS4とLiCoO2の界面においては、硫黄がLiCoO2電極に拡散する。さらに、LiCoO2表面近傍で構造が変化し、化学反応層が形成されることが分かった。構造変化によって、界面近傍ではLiCoO2電極のコバルトが還元していることも判明した。
一方、Li3PO4緩衝層を導入した界面では、硫黄の拡散やコバルトの酸化状態が変化するようなことは確認できず、LiCoO2(001)表面が原子レベルで堅持されていることが分かった。
これらの結果により、界面における高抵抗のメカニズムは、固体電解質と電極の界面で発生する化学反応層に起因することが分かった。ここに緩衝層を導入すれば、化学反応層の形成を抑えることが可能なことも示した。
今回の研究成果は、東京工業大学物質理工学院の西尾和記特任准教授と今関大輔大学院生(研究当時)、東京大学大学院理学系研究科の一杉太郎教授(東京工業大学物質理工学院応用化学系特任教授を兼務)らによるものである。
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