「Simon」の仕様を眺めていこう。既に述べたように、移動体通信(携帯電話)の通信方式はアナログ方式、具体的にはAMPS(Advanced Mobile Phone System)である。AMPSは主に北米で使われた方式であり、日本では利用されなかった。
操作はほぼ全て、タッチパネル液晶ディスプレイによるグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)を通じて行う。液晶ディスプレイの初期画面(screen)は2つあり、目的に応じて2つのスクリーンをユーザーが切り替える。1つは携帯電話を使うときの画面(Phone screen)、もう1つはハンドヘルドPC(PDA)を使うときの画面(Mobile Office screen)である。
次は「Simon」の内部構成である。当時のモバイル向け要素技術を俯瞰できる、貴重な事例だ。オペレーティングシステム(OS)はデータライト製のROM-DOS、システムLSIはバデム(Vadem)が設計した「Vadem VG230」、データ通信はモデム(ヘイズ準拠、データ転送速度2400ビット/秒)、メインメモリは1Mバイトの疑似SRAM(PSRAM)と32KバイトのSRAM、ストレージは1MバイトのNORフラッシュメモリである。ワンチップのシステムLSIが全体を制御していること、フラッシュストレージを内蔵していることが興味深い。
また、PC(PCMCIA)カードスロットを本体の底部に設けることで、外部記憶の増設だけでなく、将来の機能拡張に対応した。先見の明がうかがえる。ただし残念なのは、携帯電話システムがデジタル方式に変更され、アナログ方式のサービスが休止されると「Simon」は無用になってしまうことだ。携帯電話端末のユーザーにとって共通の問題(ハードウェアの買い換えを強制されること)が、既に露呈しつつある。
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