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産総研が量子アニーリングマシン開発の成果を報告長い開発「リレーのようにつなぐ」(2/3 ページ)

» 2022年10月06日 09時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

2種類の量子アニーリングマシン

 産総研とNECが開発する量子アニーリングマシン(プロセッサ)は2種類ある。産総研が中心となって開発を進める、超伝導量子ビットで構成される量子アニーリングマシン(超伝導量子アニーリングマシン)と、NECが主導している超伝導パラメトロンを量子ビットとして用いた量子アニーリングマシン(超伝導パラメトロン量子アニーリングマシン)だ。

独自アーキテクチャを用いたマシン

 超伝導量子アニーリングマシンは、産総研が2021年7月に「日本で初めて開発に成功した」と発表したもの。この超伝導量子アニーリングマシンは、NEDOのプロジェクトにおいて、産総研が横浜国立大学と連携して開発した。川畑氏は「非常に苦労が多かった」と振り返る。集積度は6量子ビットと小さいものの、「量子アニーリング動作に成功した集積度としては、D-Waveに次いで世界2位」だと川畑氏は述べる。産総研は、同量子アニーリングマシンを10mK(ミリケルビン/約−273℃)の極低温環境で評価。その結果、1万回測定して80%以上の正答率を得た。「ビジネスで使用するには、量子ビット数がまだまだ足りていない。だが、きちんと動作した、というのが重要なポイントだ」と川畑氏は強調した。

産総研が開発に成功した超伝導量子アニーリングマシン(左)と、6量子ビットの顕微鏡写真(右)
各量子ビットの位置と、スピン間結合器の位置 出所:産総研

 この超伝導量子アニーリングマシンでは、大規模な組み合わせ最適化処理を可能とする独自アーキテクチャ「ASAC(Application Specific Annealing Computation)」方式が採用されている。D-Waveが採用しているグラフ埋め込み方式が、あらゆる組み合わせ最適化問題が解ける一方、ASAC方式は、たった1種類の特定の最適化問題しか解くことができない。

 だが大きな利点が2つある。まずは量子ビット間の相互作用が固定であること。「D-Waveでは量子ビット間の相互作用をチューニングする機構を入れる必要がある。このため、回路が複雑になり、ノイズの発生源にもなり得る。われわれのシステムではそれが不要だ」(川畑氏)。2つ目は、問題を解く際に必要な物理量子ビット数が、ASACでは少なくて済むことだ。「ASACでは、(D-Waveに比べ)1桁ほど少ない量子ビット数で同じ問題を解くことができる。つまり、少ない量子ビット数で大規模な問題を解きたい、という要望に応えられるのがわれわれのASAC方式なのだ」(同氏)

グラフ埋め込み方式とASAC方式の比較 出所:産総研

 「D-Waveで採用しているグラフ埋め込み方式は”FPGA的なチップ”、そしてわれわれのASACは、特定の組み合わせ最適化処理に特化した”ASIC的なチップ”とイメージしていただければ」と川畑氏は説明する。

 産総研が開発したASAC方式のチップは「AQUA(AIST QUantum Annealer)」と名付けられている。第1世代となる「AQUA1.1」では掛け算と因数分解ができる。材料はニオブで、3層の積層構造を持つ。超伝導量子ビットとしては、磁束量子ビットを用いる。

コヒーレンス性に優れる超伝導パラメトロン量子アニーリングマシン

 超伝導パラメトロン量子アニーリングマシンは、NECが4量子ビットを集積した基本ユニットの開発と、アニーリング動作の実証に成功している。超伝導パラメトロンはコヒーレンス性能が極めて良いという特長を持つ。NECによれば、この基本ユニットをタイル状に敷き詰めることで、超伝導パラメトロンの特性を維持しつつ多ビット化が容易になるという。

左=NECの量子チップ(超伝導パラメトロン量子アニーリングマシン)と素子ホルダー、ウエハー/中央=量子チップ/右=量子チップを作り込んだウエハー[クリックで拡大]
左=NECの超伝導パラメトロン量子アニーリングマシンのモックアップと、産総研の川畑史郎氏(左)、産総研 NEC-産総研量子活用テクノロジー連携研究ラボ 連携研究ラボ長の白根昌之氏(右)/右=超伝導パラメトロン量子アニーリングマシンの素子ホルダー。この素子ホルダーは、左の写真で川畑氏が指し示している円筒の中に搭載されている[クリックで拡大]

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