量子コンピュータ/量子アニーリングマシンの動作(量子ビットの管理)には、絶対零度に近い極低温の環境が必要だ。そのため、既存のシステムは、大型の冷凍機と、その冷凍機に外部接続された制御装置で構成されている。その際に膨大な量の配線が必要になるので、システムを大規模しようとすると、消費電力やスペースが大きな問題となる。


 左・中央=産総研の希釈冷凍機。産総研はこれを4台所持している。フィンランドBluefors(ブルーフォース)製の装置で、現在はここに16個の超伝導量子アニーリングマシンが搭載されている。この冷凍機は、3Heと4Heを利用して冷却するが、産総研 新原理コンピューティング研究センター 研究チーム長の猪股邦宏氏によれば、3Heはウクライナ侵攻など世界情勢が原因で、価格が高騰しているという。「冷凍機では3Heを再利用して使用できる」(猪股氏)/右=制御装置。配線がかなり多いことが見て取れる[クリックで拡大]
左・中央=産総研の希釈冷凍機。産総研はこれを4台所持している。フィンランドBluefors(ブルーフォース)製の装置で、現在はここに16個の超伝導量子アニーリングマシンが搭載されている。この冷凍機は、3Heと4Heを利用して冷却するが、産総研 新原理コンピューティング研究センター 研究チーム長の猪股邦宏氏によれば、3Heはウクライナ侵攻など世界情勢が原因で、価格が高騰しているという。「冷凍機では3Heを再利用して使用できる」(猪股氏)/右=制御装置。配線がかなり多いことが見て取れる[クリックで拡大]そこで産総研は将来的に、量子アニーリングマシン(プロセッサ)と制御機能を、希釈冷凍機1台の中に全て搭載したシステムの構築を目指している。
そのために産総研が開発しているのが、制御機能を実現する半導体チップ(半導体インタフェース)「クライオCMOS集積回路」だ。外付けしていた大型の制御装置を半導体インタフェースに置き換えることができれば、電力とスペースを大幅に削減できる。
クライオCMOS集積回路の「クライオ」は極低温のこと。クライオCMOS集積回路にはシリコントランジスタの技術を用いる。だが、4K(約−270℃)という極低温環境で動作させることになるので、トランジスタの動作メカニズムの解明が必要だ。「クライオCMOS集積回路の設計には、新しいモデル方程式や、パラメーターのとり直しが必要になる。トランジスタには長い歴史があるが、今までの知見や知識を用いてもクライオCMOS集積回路はそこまでうまく動作できないことが分かってきた。そのため、トランジスタの動作を解明する研究開発をNEDOプロジェクトで行っている」(産総研 デバイス技術研究部門 上級主任研究員 森貴洋氏)
クライオCMOS集積回路の開発を加速すべく、産総研が導入したのが極低温下で300mmウエハーを自動で連続測定するオートプローバー装置である。同装置を導入した機関として世界で4番目、アジアでは初となる。ちなみに既に導入している企業/機関はIntel、フランスのLeti、軍需メーカーの米Northrop Grummanである。
今回導入したのは、フィンランドBluefors(ブルーフォース)とAFORE(アフォア)が共同開発した「Cryogenic Wafer Prober(CWP)」で、300mmウエハーを2Kに冷却し、ウエハー上に作り込まれた素子を自動測定する。これにより、1素子当たり約30秒の評価時間で、1000素子を連続して測定できるようになる。これまで、産総研では研究員が手動で測定していたので「1週間で100素子を評価するのが限界だった」(森氏)という。CWP装置の導入により、1000素子を半日程度で評価できるため、100倍以上の高速化が図れることになる。「極低温下での測定評価の効率が研究開発のスピードを決める」と森氏は強調した。
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