今回は番外編として、携帯型オーディオプレーヤー(携帯型音楽プレーヤー)の主な歴史をたどる。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げていた。FMSの公式サイトからはPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2022年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。本シリーズではこの歴史年表を参考に、主な出来事の概略を説明してきた。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職、企業名などは当時のものである。
前回は、フラッシュメモリを記憶媒体とする携帯型デジタルオーディオプレーヤー(DAP:Digital Audio Player)、具体的には携帯型MP3プレーヤーの黎明期を記述した。時期は1997年〜1998年である。
今回は番外編として、携帯型オーディオプレーヤー(携帯型音楽プレーヤー)の主な歴史をたどる。録音機能を持たない携帯型ステレオ音楽プレーヤー(携帯型の音楽鑑賞用再生専用機)の始まりは、ソニーの「ウォークマン(Walkman)」だ。1979年7月1日に発売された。記憶媒体は磁気テープ、具体的には「コンパクトカセットテープ(「コンパクトカセット」または「カセットテープ」とも呼ばれる)」である。
世界で初めての携帯型ステレオ再生専用機を開発するに至った経緯はあちこちで紹介されているので、本稿ではあえて述べない。公式な記録としては、ソニーの主な歩みを1945年〜1996年まで記述したWebサイト「Sony History」の第2部第5章と同第6章に詳しい。ご興味のある方は、閲覧されたい。
なお当時のカセットテープ機器は、カセットデッキやステレオラジオカセットレコーダー(ステレオラジカセ)などの大きくてかなり重たいステレオ録音再生機と、携帯型の「モノラル」録音再生機だったことを記しておきたい。携帯型の「ステレオ」再生専用機である「ウォークマン」の需要を疑問視する向きはソニー内外で少なくなかったものの、地道な販促活動が実を結んで空前のヒット商品となったのはご存じの通りだ。
カセットテープを記録媒体とする「ウォークマン(Walkman)」の登場後も、ソニーはオーディオの世界を革新しつつ、「ウォークマン」と似たコンセプトの携帯型ステレオプレーヤーをいち早く商品化していった。
1982年10月に世界初の民生用デジタルオーディオ記録媒体「コンパクトディスク(CD:Compact Disc)」をソニーやフィリップスなどが共同で商品化すると、わずか2年後の1984年11月にソニーは世界で初めての携帯型CDプレーヤー「D-50」(「ディスクマン」、または「CDウォークマン」と呼ばれる)を発売する。CDメディアの直径が約120mmであるのに対し、「D-50」の本体は幅が127.5mm、奥行きが133mmしかなかった。極めて高い密度で部品の実装がなされたことがうかがえる。
CDは光ディスクであり、アナログレコードと同様に、あらかじめオーディオ信号を記録してある。アナログレコードの後継製品がCDという位置付けになる。ソニーはCDの次に、光ディスクでも録音が可能な商品を開発しようとした。これが「ミニディスク(MD:MiniDisc)」となる。
CDの商品化から10年後の1992年11月には、ソニーが録音と再生が可能なデジタルオーディオ光ディスク「ミニディスク(MD)」を商品化する。画期的だったのは、ミニディスクの商品化(音楽ディスクと録音用ディスクの発売)と同時に、携帯型の録音再生機「MZ-1」と再生専用機「MZ-2P」を発売したことだ。新規格のオーディオ媒体「MD」の商品化と同時に、対応する携帯型オーディオ機器「MDウォークマン」を商品化してきた。ソニーの携帯型オーディオ機器に対する注力ぶりがうかがえる。
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