今回は、フラッシュメモリを記憶媒体とする、MP3形式の携帯型オーディオプレーヤーを世界で初めて試作していたドイツのベンチャー企業を紹介する。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げていた。FMSの公式サイトからはPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2022年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。本シリーズではこの歴史年表を参考に、主な出来事の概略を説明してきた。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職、企業名などは当時のものである。
前回は、NECが1994年に世界で初めてフラッシュメモリを記録媒体とする携帯型オーディオプレーヤー「シリコンオーディオ」を試作したことをご報告した。今回は、世界で初めてMP3方式の携帯型オーディオプレーヤーを試作したドイツのオーディオ開発ベンチャー「ポンティス(Pontis)」(注:現在の企業名は「オーディボ(Audivo)」)をご紹介する。オーディボ(Audivo)はWebサイトにMP3プレーヤーの開発経緯を掲載している。以下はその記述をまとめたものだ。
ポンティスはドイツ南部のバイエルン州シュヴァルツェンフェルト(Schwarzenfeld)に本社を置く。1994年にオーディオ技術者のErich Bohmが設立した。当時、ドイツの大手電機・電子メーカーであるシーメンスは小型フラッシュメモリカード「MMC(Multi-Media Card)」の応用事例を探索しており、その一つに民生用携帯型オーディオプレーヤーがあった。
シーメンスはポンティスにMMCを記憶媒体とする携帯型オーディオプレーヤーの開発を委託した。そして1995年には、ポンティスは試作品を完成させた。しかしシーメンスが民生用電子機器事業から撤退したため、開発計画は頓挫してしまう。
シーメンスという後ろ盾を失ったポンティスは、独自ブランドで携帯型オーディオプレーヤーを開発し、販売することを決断する。そして1997年3月には、情報通信技術の展示会「CeBIT」に試作品を出展した。
CeBITでは偶然にも、韓国のベンチャー企業セハン情報システムズが携帯型MP3プレーヤー「MPMan」を出品していた。「MPMan」の試作品を見たポンティスの技術陣は衝撃を受ける。彼ら(ポンティス)の試作品は明らかに古かったからだ。ポンティスの技術陣は、次世代品の開発に取り掛かる。
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