今回は、NECが試作したフラッシュ対応携帯型オーディオプレーヤーを紹介する。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げていた。FMSの公式サイトからはPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2022年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。本シリーズではこの歴史年表を参考に、主な出来事の概略を説明してきた。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職、企業名などは当時のものである。
前回は番外編として、携帯型オーディオプレーヤー(携帯型音楽プレーヤー)の歴史を1979年から1993年まで簡単にご紹介した。フラッシュメモリを記録媒体とする携帯型オーディオプレーヤーが登場する以前の年代である。記録媒体の主役は当初は磁気テープ(コンパクトカセット)、それから光ディスク(コンパクトディスクとミニディスク)である。
今回は、フラッシュメモリを記録媒体とする携帯型オーディオプレーヤーに話題を戻す。前々回で述べたように、初めての製品は1998年にセハン情報システムズとダイアモンド・マルチメディア・システムズが相次いで発売した。いずれも「MP3(MPEG Audio Layer3)」形式で符号化圧縮したオーディオ信号データをフラッシュメモリに格納する。MP3形式は現在に至るまで、オーディオ信号の符号化圧縮に使われてきた。
製品よりも手前の段階、すなわち研究開発の段階に眼を向けると、フラッシュメモリを記録媒体とする携帯型オーディオプレーヤーを世界で初めて試作したのは、日本を代表する大手エレクトロニクス企業であるNECだ。同社は1994年12月1日に、名刺大のフラッシュメモリカードを記録媒体とする携帯型プレーヤー「シリコンオーディオ(Silicon Audio)」を開発したと報道機関向けに発表した。
デジタル記録の符号化圧縮形式にはMP3ではなく、「MPEG Audio Layer2(「MP2」と略記することもある)」を採用した。MP3ではなく、MP2を選んだ理由は不明である。試作品向けに用意したフラッシュメモリカードの記憶容量は40Mバイト。なお試作品向けに購入したカードの価格は16万円と非常に高かったという(芹沢、杉山、「標準化が企業を生かす」、『情報処理』、vol52、no.11、p.1460、Nov. 2011)。
記録時間は1Mビット当たり5.5秒間。32Mバイトのフラッシュメモリだと約24分、40Mバイトのフラッシュメモリだと約30分になる。あまり長いとは言えない。
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