幸いなことに、ロボット業界はここ数年、多くのハードウェア技術の改善による恩恵を受けている。
具体的には、ヒューマノイドロボット向けの新しい感覚技術が強力に後押しされ、採用が進んでいる。慣性測定ユニット(IMU)などのデバイスが驚異的に向上し、ロボットが人間の神経系の特定の側面を模倣できるようになった。ヒューマノイドロボットはいまや、IMUに統合された加速度計とジャイロスコープを活用して、空間における多軸方向をより正確に推定し、ロボット制御アルゴリズムにより的確に情報を伝えることができる。
さらに感覚技術に目を向けると、知覚ハードウェアが大きく向上し、人間の視覚システムに匹敵するレベルになってきている。深度カメラ、RGBカメラ、LiDAR、レーダーなどの性能、電力効率、価格はかつてないほど向上しており、現在のヒューマノイドロボットはその恩恵を受けられる。その結果、デバイス上のカメラが生成するRGB画像から環境の3Dマップを生成し、物体を検出できるようになった。さらに触覚では、人間の皮膚のように、伸縮性や柔軟と組み合わせることで接触や環境センシングを改善し、タッチライクなセンシングを取り入れられるようになってきた。
同様に、モーターなどのアクチュエーションデバイスも、今や人体の力に耐え、人間の動きを十分に模倣できるところまで来ている。パワーとトルクの密度が高まり、ギアボックスの技術革新により、バックラッシュの低減が可能となった。
ロボットのハードウェア改善が進む現在、ヒューマノイドロボットが直面する未解決の課題の多くは、ソフトウェアの領域にある。
ソフトウェア面で最も大きな未解決問題は特に、知覚と動作設計の分野に存在する。ここでは、多くの進歩が見られるものの、最先端の技術と実用可能なロボットの知能レベルとの間には、まだ大きな隔たりがある。しかし、ハードウェアと同様、ソフトウェア分野でも、既存技術の改良や研究コミュニティーの多大な貢献の恩恵を受けている。
例えば、現在、研究者は機械学習などAI(人工知能)の新しい技術を応用し、環境を理解し、新しい方法で適応することを試みている。機械学習は、ロボット工学のパラダイムシフトを象徴している。なぜなら、データを利用するための原理的なアプローチを必ずしも必要とせず、あらゆる種類の感覚データを取り込めるツールとなるからだ。例えば、強化学習のアプローチでは、報酬システムのある環境でロボットシステムを学習させられるため、ロボットに目的を達成するための方法を明示的に教える必要がない。
機械学習は、ヒューマノイドロボットの開発に大きく貢献しており、この傾向は今後何年にもわたってこの分野の原動力となることが予想される。
ロボット工学の分野では、ヒューマノイドロボットの追求が最大の課題の一つだ。
人体の機械/感覚/制御システムの性能に匹敵するシステムを設計するのは困難なことだが、ハードウェアとソフトウェアの両方が改良され、徐々に実現可能な範囲に近づいている。
今後、この分野の改良が進めば、いずれは、ヒューマノイドロボットが普及する日がやってくるかもしれない。
【翻訳:田中留美、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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