NTTと産業技術総合研究所(以下、産総研)、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(以下、阪大)は2022年12月16日、ハードウェアを改善せずに、より高精度な量子センシングを実現できるアルゴリズムを考案したと発表した。
NTTと産業技術総合研究所(以下、産総研)、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(以下、阪大)は2022年12月16日、ハードウェアを改善せずに、より高精度な量子センシングを実現できるアルゴリズムを考案したと発表した。具体的には、同アルゴリズムにおいて、未知ノイズの影響を大幅に削減できることから、高い精度を実現できるとする。なお量子センシングとは、「量子力学に従う状態を用いて磁場、電場、温度などを検知する技術の総称」を指す。
今回考案したのは、量子エラー抑制法の一つである「仮想蒸留法」を活用した方法で、複数の量子状態同士を互いに「ダブルチェック」させることでノイズの影響を減らすことができる。NTTが量子センシングアルゴリズムの提案、解析およびその性能の数値計算評価を、産総研が本アルゴリズムの元となるアイデア発案、量子センシングの知識提供および計算検証を、阪大が量子センシングアルゴリズムの解析計算を検証した。
本手法の発展により量子センシングの精度が向上すると、医療、生体、材料工学などセンシングが応用される広い分野への貢献が期待できる。
量子センシングは既存のセンサーの感度と空間分解能を上回ると期待されている技術で、世界中で研究が行われている。量子センシングでは大きく分けて「量子もつれ状態を用いる手法」「重ね合わせ状態を用いる手法」の2種類が研究されている。量子もつれ状態を用いる手法は、ノイズの無い理想環境下では重ね合わせ状態を用いた手法と比べて何桁も精度が向上することが先行研究で明らかになっている。一方で、外部環境との相互作用やハードウェアの不完全性などによって生じるノイズの影響を受けやすいため、実環境で用いる場合はノイズの影響を削減することが課題だった。
これまでの量子センシングの研究では、事前に得られている情報から「既知ノイズ」を仮定し、統計誤差を削減するために主にハードウェアの改善に関する研究が行われていた。しかし、磁場センシングの数値シミュレーションで評価したところ、現実には想定外のノイズ(未知ノイズ)下では系統誤差が生じ、精度に著しく影響を及ぼすことが分かった。ところが、このような未知ノイズは従来の既知ノイズに対する研究手法では対処が難しかった。
今回、NTT、産総研、阪大の研究グループは、仮想蒸留法を活用することで、ハードウェアの改善なしに未知ノイズの影響を大幅に減少させられることを「世界で初めて」(同研究グループ)確認した。当該手法を磁場の量子センシングの数値シミュレーションに適用し精度を評価することで、未知ノイズの影響が削減され、量子もつれ状態を構成する量子ビット数が多いときに精度が向上することを実証した。
同研究グループはリリースで、「センシング技術は磁場、電場、温度などのさまざまな情報を高い精度で得られるため、情報化が加速する社会の基盤技術の一つとして重要性が増している。今回の研究は、量子もつれ状態を用いた高精度な量子センシングの実現に向けた重要な一歩といえる」と述べた。今後は同手法の実証実験や、複数の量子状態を準備せずに同手法を行う改良の他、異なる種類の量子センシングに適用した際の性能評価などを検討している。
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