九州大学は、全固体電池に用いる酸化物固体電解質材料の焼結温度を750℃まで下げることに成功した。この材料を用いて作製した全固体電池は、従来よりも優れたサイクル特性を示すことが分かった。
九州大学大学院総合理工学府博士課程3年(兼デンソー環境NS開発部)の林真大氏と九州大学大学院総合理工学研究院の渡邉賢准教授および、島ノ江憲剛教授らの研究グループは2023年1月、全固体電池に用いる酸化物固体電解質材料の焼結温度を750℃まで下げることに成功したと発表した。この材料を用いて作製した全固体電池は、従来よりも優れたサイクル特性を示すことが分かった。
全固体電池は、リチウムイオン電池で用いられる電解液を、固体電解質に置き変えることで安全性を高めている。固体電解質の中でも、とりわけ注目されているのが「酸化物系」である。ただ、電池作動時に正極と負極間でリチウムイオンの輸送をスムーズに行うためには、電解質を緻密に構成しなければならない。ところが、酸化物系を緻密に焼き固めるには高温で焼結をする必要がある。これによって電池性能が低下する可能性があったという。
研究グループは今回、酸化物固体電解質の中でも、とりわけ高いイオン伝導度を有する「Li7La3Zr2O12(LLZ)」に、Ca2+とBi5+イオンを添加した。これにより、従来は790〜1230℃も必要であった焼結温度を、750℃まで下げることに成功した。
焼結温度の低温化について、2つの液相が重要な役割を果たしていることが分かった。1つは添加したCa2+イオンが、Li3BO3焼結助剤を低融点化させることで生成される「Li4Ca(BO3)2液相」。もう1つはLLZ粒子間に働く圧縮応力で選択的に生成される「Li-Ca-Bi-O液相」である。実験では添加する量を調整し、これら2つの液相量を最適化することで相対密度89%を実現したという。
電解質のイオン伝導度は、室温で3.0×10-4S/cmとなった。しかも、LiCoO2電極材料と混ぜて焼結をしても、意図しない反応は生じないことを確認した。
研究グループは、開発した材料を用いて全固体電池を作製した。試作品を評価した結果、40サイクルにわたり充放電が可能で、サイクル後も初期に対し92.8%の容量を維持できることが分かった。
研究グループは今後、焼結温度を維持しながらLLZが有するポテンシャル(≧10-3S/cm)の実現と、高容量の電極材料と組わせた全固体電池の製造に取り組む考えである。
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