メモリ市場はパンデミックや地政学的な不透明性によって2023年、”波乱の年”に突入したとみられている。今回、これまでの状況や今後の見通しについてメーカーやディストリビューターの幹部に話を聞いた。【訂正あり】
メモリ市場は常に好不調のサイクルを繰り返してきたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや地政学的な不確実性によって、2022年の市場には新たなゆがみが生じ、2023年も引き続き不透明な状況が続くとみられている。
自動車分野は2021年末、迫り来るサプライチェーン問題の指標となった。例えばトヨタ自動車は、半導体不足の影響のため、2022年11月から日本国内で販売する一部の新車について、スマートキーの個数を通常の2個から1個に減らした。新車の顧客はスマートキーとメカニカルキーを1個ずつ受け取ることになった。このようなローテク対策が出現するようになったのは、多くの半導体メーカーが、供給と需要のミスマッチに対応するために人員削減を発表したタイミングでのことだった。その中でも注目を集めたのが、Micron Technology(以下、Micron)だ。なおIntelが一連の人員削減を実施した背景には、PC部門の低迷もあるという。
さらに問題を複雑化しているのが、MicronとIntelがいずれも、CHIPS法(正式名称:CHIPS and Science Act)の後押しを受け、米国内に新工場を建設するための投資を行っている最中に、人員削減を行ったという点だ。Micronは、今後20年間で最大1000億米ドルを投じ、米国ニューヨーク州クレイに半導体製造施設を建設する予定だ。
中国はCOVID-19に対し、強硬な「ゼロコロナ」政策を行い、それがサプライチェーン全体に圧力をかけていた。このゼロコロナ政策は最近になって緩和されたが、たった1種類の部品や材料が不足するだけでも、デバイス供給を妨げる要因になり得る。
米国の電子部品ディストリビューターRand Technology(以下、Rand)でグローバルソリューション・ソーシング部門の責任者を務めるJennifer Strawn氏は、米国EE Timesのインタビューに応じ、「このように、景気後退の脅威をはじめとするさまざまな不確実性の存在を考慮すれば、混乱が発生したのも自然な反応だといえる。また2020年に、リモートワークをサポートするため、5G(第5世代移動通信)/ITインフラに対する膨大な需要が突然発生したことによる“後遺症”も残っている。こうしたインフラは全て構築される必要がある」と述べる。
「このために原材料や半導体チップの需要が急増したが、2022年末には安定した。だが2023年初頭には、既に状況が変わっている」(Strawn氏)
Strawn氏は、「工場は、さまざまな半導体チップの種類に応じ、それぞれ複雑な生産を行わなければならない。各種製品に適用されるあらゆる種類の技術に対応するためには、生産能力の面で問題が生じる」と述べている。
半導体工場は、製品を生産する上で、原材料や適切な人材などの最適な組み合わせを見つけ出さなければならない。工場の生産能力は、サプライチェーン全体の生産能力でもあるため、重要な要素である。Strawn氏は、「ロシアのウクライナ侵攻によって、製造装置に必要とされるネオンガスの供給に関する問題が発生した。また、将来的に問題が生じると予測される原材料として挙げられるのが、銅だ。サプライチェーンに影響を及ぼす可能性があると予測されるものは、1つだけではない」と述べる。
例えば、2023年初めにメモリなどのコンポーネントを探していた中小企業は、妥協せざるを得なくなるだろう。大手メモリメーカーは、大手顧客を優先するからだ。
台湾のメモリメーカーMacronixでマーケティング部門のバイスプレジデントを務めるAnthony Le氏は、「パンデミック初期の頃、あらゆる分野が大規模な一時休業を余儀なくされた。例えば自動車部門の場合は、誰も運転しなくなったためだ。しかし、このような稼働停止は一時的なものだった。車載エレクトロニクスの需要は拡大を続けた」と述べる。
【訂正:2023年4月18日10時25分 当初、「米国のメモリメーカーMacronix」としておりましたが、台湾の誤りです。お詫びして訂正いたします。】
「Macronixの供給能力は安定していたが、需要は2020年末までに3倍に増加した。2021年には供給と需要のバランスが取れるようになるだろうと期待されていたが、パンデミックによって、輸送関連の問題や人材不足などといった、エレクトロニクスそのものとは関係もない幅広い課題が出現した」(Le氏)
また、Le氏は、「発注の遅れも、部品不足の原因の一つだ。製品によっては、非常に大きい影響を受けることになった。ディスプレイ用半導体の不足は、2021年後半に大混乱を引き起こし、その影響は、自動車分野だけでなくエレクトロニクス市場全体にまで及んだ。たとえ自社内では全てに対処できていても、どこかの港でコンテナの中に積まれた状態で遅れが生じると、障壁に直面する可能性がある。また、中国における工場閉鎖は、自動車やPC、スマートフォンなどのあらゆる分野に影響を及ぼした」と述べている。
「その一方、PCやWi-Fiルーター、ストリーミング用セットトップボックスをはじめ、幅広いデバイスの巣ごもり需要が創出された。このためインターネットサービスプロバイダーは、家庭用ユーザーや増大する帯域幅需要に対応するための投資の必要に迫られた」(Le氏)
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