前編に続き、バイオセンサの信号検出原理を解説する。具体的には、電気化学インピーダンス測定、イオン感応型FET、グラフェンFET、表面増強ラマン散乱などを取り上げる。
本シリーズのここ数回は、第2章第3節第2項(2.3.2)「メディカル」の最後の項目「バイオセンサ」(2.3.2.4)の概要を述べてきた。前編では、バイオ分子(プローブ)が目的の化学物質(標的分子)と結合したことを検知し、電気信号に変換する「センサ素子」の原理を解説した。いくつかの変換原理の中で、「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)」と「水晶振動子マイクロバランス(QCM:Quartz Crystal Microbalance)」を簡単に説明した。
後編(今回)は、残りの原理をご説明していく。「電気化学インピーダンス測定(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)」「イオン感応型FET(ISFET:Ion-Sensitive Field Effect Transistor)」「グラフェンFET(G-FET:Graphene Field Effect Transistor)」「表面増強ラマン散乱(SERS:Surface-enhanced Raman Scattering)」「ラテラルフローイムノアッセイ(LIFA:Lateral Flow Immunoassays)」「蛍光共鳴エネルギー移動(FERT:Fluorescence Resonance Energy Transfer)」である。なお、「表面増強ラマン散乱」以降の原理説明は誌面の都合で割愛した。詳しくは実装技術ロードマップ本体(書籍)を参照されたい。
始めは「電気化学インピーダンス測定(EIS:Electrochemical Impedance Spectroscopy)」を説明する。EISとは、電解質溶液中に置いた2本の固体電極の間に交流電圧を印加し、交流の周波数を変化させながらインピーダンスを測定する方法を指す。電極と電解質溶液の界面の変化を高い感度で測定できる、測定装置が簡便であるといった特長を有する。測定したインピーダンスは、実数成分を横軸、虚数成分を縦軸としたグラフに曲線としてプロットする。このグラフを「ナイキスト線図」と呼ぶ。
ナイキスト線図の曲線は、通常は半円を描く。ここで電極表面にバイオ分子(プローブ)を固定しておくと、目的の化学物質(標的分子)を取り込むことで誘電率が変化し、半円の径が変化する。直径の変化量から、標的分子を取り込んだ量を計算できる。
なお、半円の径は、電極(Au電極などの非反応性電極)と電解質溶液の間で形成する電気二重層の容量によるインピーダンスに相当する。
続いて「イオン感応型FET(ISFET:Ion-Sensitive Field Effect Transistor)」である。ISFETはMOSFETと類似のトランジスタであり、ゲート絶縁膜とゲート電極の部分を独自の構造としている。ゲート電極は存在せず、ゲート絶縁膜は水溶液中のイオン濃度を検出する「感応膜」に換えてある。感応膜がイオンにさらされるとチャンネル表面の電位が変化する(しきい電圧が動く)。この変化を水溶液中の参照電極を通じて検出することで、イオン濃度を推定する。
ISFETの代表的な用途は、水溶液中の水素イオン指数(pH(ペーハー)値)を測定するpHセンサである。ISFETはシリコン基板で作成するのでアレイ化が容易という特徴を備える。例えばISFETを大規模に集積したpHセンサアレイが、次世代シーケンサーに採用されている。
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