東京大学の研究グループは、多数のベンゼン環が直線状に連結した「ポリアセン」を合成することに成功した。太陽電池やナノデバイスなどへの応用を目指す。
東京大学大学院工学系研究科の植村卓史教授や北尾岳史助教、三浦匠大学院生らの研究グループは2023年5月、多数のベンゼン環が直線状に連結した「ポリアセン」を合成することに成功したと発表した。太陽電池やナノデバイスなどへの応用を目指す。
ベンゼン環が直線状につながった構造のアセン類は、ベンゼン環の個数が増えるほど優れた光電子特性を示すことが分かっている。しかし、アセン分子が長くなると、溶解性や安定性が大幅に低下するため、合成するのが極めて難しかったという。実際に、現状で最も長いアセンは、2020年に発表された12個のベンゼン環からなる「ドデカセン」である。
研究グループは今回、規則的なナノサイズの細孔を持つ多孔性金属錯体(MOF)に着目した。これまでも、MOFのナノ細孔を反応場にすることで、高分子やナノカーボン材料の制御合成に成功してきた実績を持つ。
実験ではまず、MOF内にポリアセンの原料となるモノマーを導入し連結反応を行うことで、ポリアセンの前駆体となる高分子を合成した。MOFの細孔内ではモノマーが一次元的に配列しており、適切な反応位置で連結させることができるという。
次に、得られた複合体を塩基で処理した。これによりMOF骨格のみを選択的に除去し、前駆体高分子を分離した。その後、加熱処理を行いポリアセンに変換した。さらに、奈良先端科学技術大学大学院の山田容子教授(現在は京都大学)らの協力を得て、ポリアセンの構造を解析した。この結果、ベンゼン環が平均で19個、長いものでは数十個つながっていることを確認した。
今回開発した手法を用いると、ポリアセンの大量合成が可能となる。研究グループは今後、最細グラフェンとみなせるポリアセンの光/電子/磁気特性を解明していくとともに、太陽電池やナノデバイスなどへの応用を目指す考えだ。
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