東京大学とファームシップは、カリウムイオンを安定的に計測できる「フィルム状の有機半導体センサー」を開発した。このセンサーを用い、レタスの栽培実験に成功した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科とファームシップは2023年4月、カリウムイオン(K+)を安定的に計測できる「フィルム状の有機半導体センサー」を開発したと発表した。このセンサーを用い、液肥を一定濃度に制御した水耕栽培設備で、レタスの栽培実験に成功した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業において、水耕栽培に用いる液肥の主要成分について、そのイオン濃度などを簡便に検出できるセンサーの基本技術を開発している。主要成分とはK+やアンモニウムイオン(NH4+)、硝酸イオン(NO3-)、リン酸イオン(HPO42-)などである。
東京大学とファームシップは今回、東京大学が開発した有機半導体を用いたイオンセンサーを組み込み、液肥の成分を検出できる装置の開発に取り組んだ。液肥中にある有機半導体の電気伝導度は、隣接イオンとの電気的相互作用によって変化し、イオン濃度を測定することができるという。
今回用いた有機半導体は、大気中で塗布することができ、大面積の有機半導体単結晶薄膜を安価に得ることができるという。この薄膜をフィルム基板上に形成し、電極を設けて電気二重層トランジスタを作製した。この電気二重層トランジスタにイオン選択感応膜を搭載すれば、水溶液中のイオン濃度測定が可能となる。今回開発したのはカリウムを対象としたセンサーである。イオン選択感応膜を変えることによって、さまざまなイオンに対応することができるという。
開発したイオンセンサーを循環方式の液肥プールで水耕栽培を行う植物工場に導入し、液肥成分のモニタリングを行った。上流や下流において異なるK+濃度を計測し、その結果に基づいて供給する液肥の濃度を一定に制御することに成功した。さらに、これらを小型の水耕栽培液肥濃度安定化システムとして構築し、レタスの栽培実験に成功した。
↓|,K+濃度とセンサー検出電圧の関係 出所:NEDO他
東京大学とファームシップは今後、精度の向上や安定性を検証していく。同時に実用化へ向けて生産現場に適用できるシステムの開発に取り組む。レタスなどの植物工場に加え、温室などで行われる養液栽培への適用も検討していく。なお、イオン選択感応膜を変更すれば、さまざまなイオンに対応できることから、多種類の感応膜を印刷プロセスで一度に形成すれば、「マルチイオンセンサー」なども実現できるとみている。
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