東京理科大学らの研究グループは、リチウムイオン伝導性ガラスセラミック基板上にタングステン酸リチウム薄膜を積層した「全固体酸化還元型トランジスタ」を開発した。この素子を物理リザバーに用いれば、機械学習を高速かつ低消費電力で実行できる「ニューロモルフィックコンピューティング」技術を実現できるという。
東京理科大学らの研究グループは2023年7月、リチウムイオン伝導性ガラスセラミック(LICGC)基板上にタングステン酸リチウム(LixWO3)薄膜を積層した「全固体酸化還元型トランジスタ」を開発したと発表した。この素子を物理リザバーに用いれば、機械学習を高速かつ低消費電力で実行できる「ニューロモルフィックコンピューティング」技術を実現できるという。
研究グループはこれまで、電気二重層トランジスタを物理リザバー(時系列入力を時空間パターンに変換できる装置)に用いて、脳型情報処理を行う技術を開発してきた。この研究成果を基にして、酸化還元トランジスタの開発を進めてきた。酸化還元トランジスタを物理リザバーに用いた場合、ドレイン電流とゲート電流の非線形応答が得られ、二重リザバー状態を実現すれば情報処理能力がさらに向上すると考えた。
実験ではまず、LixWO3ベースの酸化還元トランジスタを作製した。厚み0.15mmのLICGC基板上に、ドレイン電極およびソース電極として膜厚50nmの白金を、その上に膜厚100nmのWO3を形成。ゲート電極は、膜厚200nmのLiCoO2をWO3層とは異なる側に製膜をし、この上に集電体として膜厚50nmの白金を形成した。さらに、ゲート電極とソース電極間に2.5Vの定電圧を1時間印加することで、LiイオンがWO3チャネルに挿入されたLixWO3相を形成した。
作製した酸化還元トランジスタを物理リザバーに用い、時系列入力に対する二次非線形動力学方程式を解くことで、演算処理性能を評価した。この結果、予測誤差は単一リザバー(ドレイン電流のみの条件)の8.15×10-4に対し、二重リザバー(ドレイン電流とゲート電流を組み合わせた条件)では5.39×10-4と、小さい値となることが分かった。この値は、スピントルク発振素子やメモリスタと比較しても、高い精度で演算処理ができることを示すものだという。
研究グループは、時系列予測の性能評価に向けて、非線形自己回帰移動平均(NARMA2)タスクを実行した。これにより、二重リザバーでは規格化平均二乗誤差(NMSE)が「0.163」となり、優れた性能になることを確認した。さらに、短期記憶タスクを実行した。この結果、記憶容量は単一リザバーの「2.35」に対し、二重リザバーでは「3.57」に増えることが分かった。
今回の研究成果は、東京理科大学先進工学部物理工学科の樋口透准教授、同大学大学院理学研究科応用物理学専攻の和田友紀氏(2022年度修士課程修了)、西岡大貴氏(2023年度博士課程3年)、物質・材料研究機構ナノアーキテクトニクス材料研究センターの土屋敬志主幹研究員(兼東京理科大学連携大学院客員准教授)、並木航ポスドク研究員、寺部一弥MANA主任研究者らによるものである。
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